第19話 元Fランク冒険者 VS Cランク闘技者
一時間後。
俺はいつものハルバードを手に、ノエルと並んで、フィールドに立っていた。
対峙するのは、昔ながらの金属フルアーマーと盾を装備した大柄な男、亀田。それに、小柄で細身で、両手に鉤爪をつけた男、兎山だ。服装は、俺と同じ黒のアサルトスーツだが、防刃ベストは身に着けていない。正式名称バラクラバ、俗に目出し帽と言われるもののせいで、表情は解らなかった。
それでも、暗殺者のような殺意だけは、フルフェイスメットとバラクラバ越しでも伝わってきた。
「あれがターゲットか」
「写真で見た通り、まだ子供だな」
「だが、クライアントの依頼だ。手は抜くなよ」
「心得ているさ」
亀田と兎山は、無機質な声でやり取りをしながら、俺を再起不能に陥れる算段をしているようだった。
冒険者を目指していた頃は、まさか人間から狙われる日が来るとは思わなかった。
今は、隣にいるドラゴニュートのノエルの方が、むしろ頼もしく見える。
——ドラゴニュートと組んで人間と戦うなんて、現実は小説よりも奇なりっていうやつかな。
そして、VIP席にいる財前光良。あいつだけは、絶対に許さない。
怒りの炎を静かに燃やしながら、ノエルに告げた。
「ノエル、手加減抜きで行くぞ」
「はい」
最初からドラゴンの翼と手をまとい、半竜化したまま、ノエルは頷いた。
『それでは、これより本日のメインイベントを行います。なんと、この試合には互いのプロデューサーの全個人資産とボウズ頭、選手の活動三か月停止とPVの出演権がかかっています。また、孝也、ノエル選手が負けた場合、桜森事務所は財前事務所の傘下に入ります。信じられない条件ですが事実です! それでは本日の大一番! はじめぇえええええ!』
試合開始のブザーが鳴ると同時に、ノエルの翼が火を噴いた。
ジェット戦闘機もかくやという弾丸加速で、ノエルは亀田に突っ込んだ。
流石はCランク闘技者と言うべきか、亀田は素早く盾をずらして、ノエルの爪を受け止めた。
ダマスカス鋼の盾に、ドラゴンの爪が食い込んだ。牙には劣るけれど、こっちには本物の爪がある。
少なくとも、鋼のハルバードよりは、ずっといい勝負ができるだろう。
「ぬぐっ!?」
殺しきれない推進力が、亀田の巨体を背後へ押し流した。
小柄なノエルのタックルクローに、亀田は負けていた。
無理もない。
いくらノエルが小柄と言っても、体重は40キロ近くはあるだろう。
それが超音速で衝突して来れば、その威力は戦車砲にも匹敵する。
並の肉体強化で、支え切れるものではない。
「亀田!?」
仲間の意外な苦戦で、兎山に隙ができた。
俺は、ハルバードを突きだして、すぐさま爆炎魔法イクスプロージョンを放った。
紅蓮の幕が、一斉に兎山に襲い掛かる。
相手が実力を発揮する前に倒す。冒険者がモンスターを討伐するときの鉄則だ。
けれど、兎山は爆炎の壁を突き破ってきた。
春花の読み通り、耐熱性を強化したアサルトスーツを着てきたのだろう。
これで終わってくれればと思ったけれど、そこまで上手くはいかない。
なら、プランBだ。
肉体強化魔法で接近戦に備えながら、俺は兎山の動向に目を光らせた。
「奇襲は褒めてやるが、ここまでだ、高橋少年」
冷徹な声で言うや否や、兎山の左右に影が立ち上った。
春花の言っていた、幻覚魔法だ。
影は一瞬で厚みと色を得ていく。本物を含めて七人の兎山になった。
七人の兎山は、俺が苦戦したゴブリンよりも、遥かに機敏な動きで俺を包囲すると、一斉に襲い掛かってきた。
速い。
とてもじゃないけど、全員の相手なんてしていられない。
できるだけ多くの兎山を巻き込めるよう、ハルバードを横に構えると、大きく一回転した。
二人、三人の体をすり抜ける。
けれど、二人が跳躍して、二人が体を沈めて、ハルバードを避けた。
次の瞬間、右のふとももに熱い痛みが走った。
「ッ」
見下ろせば、アサルトスーツが裂けて、ふとももには四本の切り傷が刻まれていた。
俺の横を通り過ぎていく七人は互いにすれ違いあって、また、俺を取り囲んだ。
やっぱり、カンに頼っても本物の兎山は見つけられない。
VIP席を一瞥すると、光良が「よしやった!」みたいな顔でガッツポーズを作っていた。
その表情が俺の怒りに拍車をかけて、怒りが俺の魔力を励起させる。
「なら、あの手だな」
再び、兎山たちが殺到してくる。
俊足のCランク闘技者が、七方向から一斉に迫る圧力と戦いながら、俺は冷静に、ハルバードの石突で、地面を穿った。
「デトネイション!」
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