第17話 Cランク闘技者との試合に勝算はあるか
「どういうことだよ春花。あんな無茶苦茶な賭けをして!」
家に帰った俺は、リビングで春花に声を荒らげた。
「負けたら光良の事務所の傘下って、俺あいつの下でなんか働きたくないし、俺のランクアップも絶対邪魔してくるぞ!」
テーブルを挟んで対面側のソファに座る春花は、ノエルを隣に座らせ、頭をなで回しながら涼しい顔だ。
「注目度を上げるためにはあれぐらいしないと。おかげでスポーツ新聞もテレビも大きく扱ってくれるみたいだし。それに、勝つし」
春花の瞳が、勝算に光った。
「光良もバカじゃない。孝也とノエルのデビュー戦の映像は何度も見て、勝てる人材を当ててくるだろうね。向こうは十中八九、亀田と兎山(うさぎやま)を出してくるよ」
「誰だよ、それ?」
春花は、至極真面目な顔で説明を始めた。
「財前事務所が抱えるCランク闘技者さ。ねぇ、孝也って小柄で速い集団に弱いよね?」
「うっ」
デビュー戦の前、ゴブリンたちに苦戦した、苦い記憶が蘇り、息が詰まった。
「万能武装ハルバードの数少ない弱点がソレだもん。それに、防御魔法を一撃で粉砕する爆発魔法の威力を考えれば、攻撃は受けるより避けるべき。兎山は、Cランク切ってのスピードスターで、しかも幻惑系の魔法で分身して見せられるんだよ。孝也の天敵さ」
「なら、効果範囲の広い爆炎魔法で分身全部ぶっ飛ばせば」
「当然、爆炎対策はしてくるだろうね。炎耐性のある装備とか」
「ぐ……で、亀田ってのは?」
「亀田はCランクでもトップクラスの盾役だよ。軽くて丈夫なダマスカス製の重装鎧と盾、それに魔法遮断魔法の使い手だ。物理と魔法、どちらの攻撃も奴には効かない。Cランクで孝也の爆発魔法とハルバードに対抗できるのは彼だけさ」
「完璧な布陣じゃないか。そんな連中にどんな勝算があるって言うんだよ?」
少なくとも、俺には勝つ方法なんて、まるで思いつかなかった。
「勝利のカギは、ノエルだよ」
両手でクッキーをつかみ、リスみたいに齧っているノエルが、顔を上げた。
「わたしですか?」
「そうだよ。デビュー戦で、ノエルは翼からジェット噴射をしなかった。だから、向こうはノエルがヴォルケーノタイプのドラゴニュートだって知らないし、ジェット噴射の超加速も知らない。でも、ノエルなら、兎山のスピードに対抗できるし、両手をドラゴンにすれば至近距離戦でも負けない」
「がんばるのです」
ノエルは、小さな手を、きゅっと握って拳を作って意気込んだ。
「加えて、試合当日には発注しておいたハルバードが届くことになっている。ヴォルケーノアーマードラゴンのハルバードだ。冒険者オタクの孝也なら、これの意味がわかるんじゃないかな?」
「あ」
冒険者高校で習った知識を思い出して、俺は手を鳴らした。
「そういえば、ヴォルケーノドラゴンの素材には爆発魔法の威力を高める効果があったな」
同じように、フロストドラゴンの素材には氷魔法の、サンダードラゴンの素材には雷魔法の効果を高める力がある。
「その通り! 仮に、亀田の魔法遮断魔法が予想以上に強力でも、向こうはダマスカス鋼の盾と鎧、こっちはドラゴンの牙だ。どっちが上かなんて子供でもわかるよ」
ダマスカス鋼は、人間作り出せる金属としては最高峰の強度を持っている。
オリハルコンやミスリル、アダマントなどの超希少金属を除けば、最強の金属は間違いなくダマスカス鋼だ。
けれど、ドラゴンの牙はそれを凌駕する。
強靭な金属質の体を持つ、アーマードラゴンの牙なら、なおさらだ。
さっきまでは勝ち目がないと思っていたけど、春花の話を聞いていると、なんだかイケる気がしてきた。
「デビュー戦の日、『常に自身の勝利を疑わない』のが帝王学だとボクは言ったけれど、勝算もなく勝利を叫ぶバカじゃない。ボクのこと、見直した?」
「ああ、流石は闘技者オタクだな」
俺が笑いかけると、春花も歯を見せて笑った。
「お褒めに預かり光栄だよ、冒険者オタク君。それと」
春花は、ノエルを小脇に抱えると、目を細めて頬ずりした。
「これもノエルのおかげだよ。いい子いい子」
春花に愛でられて、ノエルは冷静な顔をちょっと赤くして、恥ずかしそうに頬を噛んだ。
しかも、ノエルのほうも春花に抱き着いて、まるで仲の良い姉妹みたいだった。
見ていて和む。
「でも最後に一つだけいいか? そもそも、俺って高校卒業したばかりの素人だけど、熟練のCランク闘技者相手に技量で劣らないか?」
「いや、そこは自信を持っていいよ。だって孝也は強いもん」
春花は、姿勢を正して俺と向き合った。
「闘技者オタクのボクが保証するよ。デビュー戦と、ノエルとの訓練を見た限り、キミの実力はかなりのものだよ。まるでハルバードを10年以上も扱っているような貫禄には驚いたよ。冒険者高校で、真面目に努力してきた賜物だね。えらいえらい」
春花の好意的な微笑みに、ちょっとドキリとした。
努力を認められるのは、本当に久しぶりで、しかも春花みたいに美人で気さくな子に褒められれば、いやでも琴線に触れてしまう。むしろ、琴線をわしづかまれた。
「じゃ、試合まで特訓頑張ってね」
「おう!」
「おー」
俺とノエルは、拳を固めて返事をした。
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