第16話 財前光良の記者会見、乱立するフラグ

 一週間後。


 T都闘技場の一室で、俺らは試合前の記者会見に参加していた。


 多くの記者たちが居並ぶ前で、俺らは長テーブルに着いて、質疑応答をしている。


 当日までのお楽しみと、選手を明かしていない光良側は一人、こちらは春花、ノエル、俺の三人だ。


 この様子は動画サイトでも生配信されていて、テーブルの上のスマホで、映像が確認できるようになっている。


 画面には、春花とノエルの美貌と巨乳に言及したコメントが流れまくっていて、ちょっとイラついた。


 ——お前ら他にもっと見るところがあるだろう。


「財前氏。相手の桜森事務所は立ち上げたばかりの新顔ですが、今回勝負を提案した理由は?」

「近々、闘技場のPVに出演されることが決まっているそうですが、関係はありますか?」

「鮮烈なデビューを果たしたノエル、孝也選手両名を倒し、格の違いを見せつけようとしている、という声もありますが」


 記者の問いかけに、光良は澄まし顔で答えた。


「勝負を提案したのは、彼らの実力が本物か、私が見定めようと思ったからです」

「それは何故ですか?」

「冒険者業界の凋落に伴い、多くの冒険者が闘技業界に流入しています。その受け皿として、今後、多くの闘技事務所が乱立し、業界は混乱することでしょう。業界の秩序のため、先日の試合がただのビギナーズラックなのか、見極めることは大切だと判断します」


 随分ともっともらしいことを言っているな。どうせ、誰かに用意してもらった原稿を丸暗記だろう。


「それに、もうご存じだとは思いますが、桜森事務所の社長桜森春花氏と、所属闘技者である高橋孝也氏は私の同級生です。彼女たちの実力を測るとともに、【死に水を取る】役目を、他の人には任せられませんよ」


 不穏なワードに、記者たちがどよめいた。


 それを見計らい、光良は声高に言った。


「桜森。試合を盛り上げるためにも、ひとつ賭けをしないか。そうだな、負けた方の事務所は相手側の傘下に入るっていうのはどうだ?」


 記者会見場が、一気にどよめいた。


 ——こいつ、何を言っているんだ!?


 すぐに食って掛かりたい衝動をぐっと堪えて、俺は息を呑んだ。


 スマホの画面を見ると、コメントも大盛り上がりだった。


 こんな勝負は駄目だ。断るよう、春花に念じた。


 しかし、春花は好戦的な笑みを作り、語気を強めた。


「いいよ。ただし、ボクはキミの息がかかった選手なんていらない。ボクらが勝った時は、闘技場PVの出演権を貰おうか。大手に財前事務所の、それも2つもランクが上の選手に勝ったなら、資格は十分だろ?」


 強気な態度が意外だったのか、光良はやや動揺した様子だった。


 それでも、カメラの手前、平静を装う。


「わ、私の一存では決められないなぁ。それは闘技協会の許可もいるし……」


 光良の震える声を耳にすると、春花は肉食獣めいた声音で畳みかける。


「それに、試合を盛り上げるならそれじゃ足りないよ」

「え?」


 光良が、きょとんとまばたきをする。


 春花は舌なめずりするライオンのように、歯を見せて笑った。


「負けたほうの選手は三か月間の出場停止!」

「は?」

「加えて! ボクとキミ、互いの個人資産をすべて自分の選手に賭けること!」

「おい!」

「最後に! 負けた方のプロデューサーはカメラの前で頭を坊主にするんだ!」

「ちょぉっ!?」

「以上! 桜森グループは追加で三つの条件を提案します! さぁ、受ける勇気はあるかな!」


 記者会見場は騒然とした。

 ネット上でも、コメントの嵐が止まらない。


『桜森SUGEEEEEEE!』

『男らしすぎだろ!』

『キャーステキー! イケメーン! だいてー!』

『そこにシビれる憧れるぅ!』

『流石は桜森グループのご令嬢! やることが違うぜ!』

『桜森万歳桜森万歳!』


 春花は、部屋中のカメラと視線を独り占めにしながら、殺到する質問をさばいていく。


「本当にいいのですか? 負ければ全てを失いますよ?」

「問題ありません。勝ちますから」

「自信の根拠は?」

「うちには秘密兵器がありますから」

「秘密兵器とは?」

「それを言ったら秘密の意味がないでしょう。それは財前事務所の選手同様、当日のお楽しみということで」

「宣伝部長! PVの件はどうですか?」


 記者の質問に、宣伝部長と呼ばれた女性が頷いた。


「いいでしょう。もしも孝也氏、ノエル氏が勝利した暁には、PVには二人に出てもらいます」

『おぉおおおおおおおおおおおお!』


 光良は、完全に蚊帳の外だった。


 今、この場を支配しているのは春花で、彼女が主役だった。


 光良の番が回ってきたのは、最後の確認の時だった。


「財前氏。この勝負、受けますか?」

「え? あ、ああもちろんですよ。こちらは業界の先輩、胸を貸すつもりでお受けしましょう」


 最初は狼狽していた光良だが、よほど自信があるのだろう。


 得意げに胸を張ると、カメラの前でドヤ顔を作った。


 それにしても、春花の奴は何を考えているんだ?


 俺は、気が気じゃなかった。


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