第15話 胸糞お坊ちゃま財前光良からの挑戦と撃沈
光良は、にやりと、邪悪な笑みを浮かべた。
「へぇ、そうなのかぁ。なぁ高橋、昨日がデビュー戦なら、今はFランクか?」
「いや、昨日の試合でDランクに勝ったから俺もノエルもEランクだぞ」
「そうかそうか。じゃあ春花、今度うちの闘技者と戦わないか? さっきも言ったけど、うちは大手でね。協会にもある程度、顔が効くんだ。特別に、Cランクの選手との試合をセッティングしてあげるよ。勝てば、二人のランクアップは確実。もしかしたら、一気にCランクになれるかもしれないぜ?」
——こいつ、何を考えているんだ?
光良の急変ぶりを訝しみ、俺は警戒した。
その矢先、光良は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「でも気を付けてくれよ高橋。もしも万が一、事故でお前が再起不能になったら心苦しいからな。いくら春花と結婚したいからって、無理に勝とうとしちゃ駄目だぜ」
なるほど、ケガで再起不能狙いか。
それで俺がAランクに上がれないようにして、俺と春花の仲を裂く。
光良なら、それぐらい平気でやるだろう。
出世のチャンスだけど、ここは断るべきだろう。
「いいよ。やろうやろう」
——えぇええええ!? なんで受けちゃうんだよ!? それも無邪気な笑顔で! お前馬鹿なの!?
「でもぉ」
ところが一転、春花の笑顔が、鋭く引き締まった。
目つきは完全に勝負師のソレだ。
「ただ戦うんじゃあつまらないよね。元同級生同士の対決ってのを強調して宣伝して、試合前に記者会見を開いてトラッシュトークでもしようか」
トラッシュトークとは、試合前に挑発し合い、場を盛り上げるアレのことだ。
「いいねぇ、わかっているじゃないか春花。じゃあそういうことで、契約成立だ」
光良は、流れるような仕草で、春花に握手を求めた。
俺は、その手を素早く握った。
それは、春花への独占欲ではなく、光良への嫌がらせだ。
こいつには触れたくないけど、俺のささやかな不幸と引き換えに、光良の願いを打ち砕けるなら安いものだ。
「よろしくな光良。まさか同級生の事務所と戦うことになるとは思わなかったけど、どっちが勝っても恨みっこなしだぜ」
「くっ、高橋お前っ」
光良は鼻にしわを集めながら、俺の手を握り潰すように力を入れてきた。
でも、俺は涼しい笑顔を見せてやる。
伊達に、冒険者高校で鍛えていない。
光良のおぼっちゃま握力なんて、俺には通じない。
「どうした光良? 握手長いぞ?」
「ちっ、じゃあ春花、詳しい話はあとで連絡するよ」
くそっ、と吐き捨てて背を向けると、光良は苛立たし気に、大股で立ち去った。
俺は、すぐさま春花に向き直った。
「おい春花。いきなりCランク相手なんてどういうつもりだよ。せめてもう少し訓練してからじゃないと……春花?」
春花は、熱っぽい顔で、ジッと俺のことを見つめて、固まっていた。
「おい」
「え、あーごめん。急に孝也が独占欲発揮するから驚いちゃった。そんなにボクが光良と手を握るの嫌だった?」
肩を弾ませながら、春花は嬉しそうに俺の顔を覗き込んできた。
「ちげーよ。光良への嫌がらせだ。あいつ、お前のこと好きみたいだからな」
「らしいね。中学の頃から変にボクのこと誘ってくるしバレバレだよ。て言っても、みんなと一緒以外のは全部断っているし、待ち合わせ場所に光良しかいなかったらボクもそのまま帰っているから、二人きりで遊んだことはないよ」
「なんでだ?」
金持ち同士、上流階級の付き合いとかありそうだけど?
「生理的に無理」
「無理です」
何故か、ノエルも被さってきた。嫌われているなぁ光良。
ただし、俺も光良は嫌いなので、二人への好感度がぐんと上がった。
「話を戻すけど、俺とノエルにCランク闘技者の相手は勝算低くないか?」
「Cランクからは次元が違うって話? でもいいじゃない。むしろ、ノエルの乳歯から作った武器の性能を試すいい機会だよ」
「必要なら、わたしが前に取れた爪とツノもあげるのです」
言いながら、ノエルはスカートの中に手を入れた。
「お前のスカートの中はどうなっているんだよ?」
「ドラゴニュートはストレージ魔法を使えるのです。でも、空間から取り出したら驚かれるから、服の中から出しているように見せるようハルカが」
「だからってスカートの中から出したら別の意味で驚いちゃうだろ?」
「別の意味ですか?」
お人形さんのように整った顔を傾ける。
藪蛇だった。追及される前に話を逸らそう。
「春花の言う通り、ドラゴンの牙から作った武器は激レアだ。それこそAランク冒険者の装備だ。名工の手にかかれば、伝説級の武器になるかもな」
「なら、早速手配するね。ウチのメーカーじゃママが何かするかもしれないから、業界最大手に発注しとくよ。次の試合はドラゴン装備だよ」
言って、春花はスマホをタップした。
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