第14話 胸糞お坊ちゃま財前光良登場
スポーツニュースで俺のことが取り上げられていた。
ノエルと一緒に写っている写真付きで、
【期待の大型新人現る! ドラゴニュートのノエルと、爆裂の剣闘士タカヤ】
と見出しが出ている。
動画からトリミングしたであろう写真が、他にも数枚掲載されている。
10秒の動画も見れるようになっている。
タップすると、動画が始まる。
それは、俺が爆砕魔法ブラストで、片山のバリアを砕くシーンだった。
紅蓮の爆炎と煙が晴れる中、爆心地に佇む俺は、自分で言うのもなんだが、けっこう、カッコイイのでは、と思ってしまう。
スマホが下げられると、春花がウィンクで待っていた。
「言ったでしょ? 闘技協会はお客さんを呼べる選手の試合を組みたがるって。ボクさ、五歳の頃から闘技が大好きでよく観戦しているんだけど、ただ剣や槍をぶつけ合う試合ってあまり盛り上がらないんだよね。魔法も、地味なのはちょっとね。その点、孝也の爆発魔法はド派手で後ろの席からでもよく見えるし最高だよ。視覚と聴覚をガンガン刺激してエキサイトしちゃう!」
熱を込めて語る春花の言葉に、俺は諭される。
まさか、役立たずと思っていた爆発魔法が、闘技業界じゃ最大のアピールポイントになるなんて。
俺は息を呑んだ。
「なら、試合はちゃんと組んでもらえるんだな?」
「期待はしていいよ。だからあとは、格上相手に何回組んでもらえるかだね」
そこで、無口なノエルが口を挟んだ。
「ノエルたち、強い人と戦わせてもらえるのですか?」
「あー、そういやそうだな。俺は闘技にあまり詳しくないけど、普通は同じランク同士で戦うもんなんだろ?」
「それが、最大の問題なんだよねぇ……」
春花が、難しい顔をする。
「こっちから喧嘩をふっかけようにも、格上側にはこっちと戦うメリットないし、協会主催の大会イベントは同じランクの相手としか戦えないし。このままじゃボクのカラダがどこかの男子に蹂躙されちゃうなぁ」
ふざけず、それはやだなぁ、と春花は本気で苦悩し始めた。
その姿に、俺は暗い気持ちになる。
——そういえば、親の決めた相手と結婚するって事は、そういう事だよな。
明るくて元気な春花が、好きでもない男に肌を許す。
その光景を想像して、気持ち悪くなった。
もしかして、桜華さんは、とんでもない毒親なんじゃ。
そう思った時、俺の嫌いな声がかかってきた。
「あれ? 春花じゃないか、奇遇だなぁ」
区画の角で信号を待っている俺らに声をかけてきたのは、中学時代の同級生、財前光良だった。
昨夜、クラス会に参加していて、みんなの先頭に立って俺を馬鹿にしてきた嫌な奴だ。
今日も長身にブランドものの服をまとい、無駄に整った顔立ちにドヤ顔スマイルを浮かべている。
「あー、光良だっけ? 中学の時の」
「何その反応? オレのこと忘れてたの? 酷いなぁ」
興味のなさそうな春花と違い、光良は猫なで声を出して、彼女に取り入ろうとする。
「昨日のクラス会には何で来なかったんだい? 春花に会えるのを楽しみにしていたのに」
「昨日はボクの事務所のデビュー戦だったからね。闘技場に行っていたんだよ」
「闘技場? ていうと、桜森グループは闘技業界に参戦するのかい?」
「発起人と責任者はボクだけどね。実家はあまりかかわっていないよ。確か光良のところは前から闘技事務所持っているよね?」
「まぁね。これでも、割と大手だよ。それにしても自分から立ち上げるなんて、春花は行動力があるなぁ。好きなの?」
「闘技観戦は大好きだよ。子供のころからね。将来の夢は自分の事務所を持って闘技者たちをプロデュースすることだったんだから」
「へぇ」
その時、光良の眼が、獲物を見つけたヘビのように細くなった。
どうやら、春花に取り入る足掛かりを見つけたらしい。
「じゃあ今度、うちの事務所の見学でもするかい?」
「う~ん、どうしようかな。ボクも大学とノエルと孝也のプロデュースで忙しいからなぁ」
「孝也って、高橋のことか?」
「俺だよ」
光良は、俺の顔を見るなり、あからさまに嫌そうな顔をした。
今頃俺に気づいたのか。春花以外は眼中にないってか?
「なんで高橋がいるんだよ?」
「俺は桜森事務所の闘技者だ。こいつとタッグを組んでいる」
いつの間にか、小さなノエルは俺の背中に隠れていた。
俺と春花の間から、顔を覗かせる。
ノエルを見るなり、光良は口角を上げた。
「かわいそうに、こんな奴と組むと苦労が多いだろう?」
「タカヤ、この人、生理的に嫌いです」
光良の口角が引き攣った。
子供は正直でいいなぁ。
俺は、ノエルのことが大好きになった。
ドラゴニュートだろうと人間だろうと、そんなことは些細な問題だ。
「あ、それとボク、孝也と結婚するんだぁ」
急に、春花が俺の腕を抱き寄せた。
すると、光良の顔があからさまに歪んで、驚きの声を上げた。
「け、結婚!? 高橋が、なんで? そいつは冒険者オタクで地味で現実見れていないドリーマーだぜ?」
「ほら、孝也って中学の時から冒険者になるって夢に一途だったじゃない。ボク、努力家が好きなんだ。それに、昨日もボクのためにデビュー戦で勝利を捧げてくれたし。女の子なら、キュンと来ちゃうよ。えへへ、孝也ぁ」
「お、おい、くっつき過ぎだぞ」
偽装デートの一環だとしても、光良にそこまでアピールする必要はないだろう。
なのに、春花は妙にすり寄ってくる。
「わたしもタカヤのことは大好きなのです」
反対側の腕には、ノエルが抱き着いてくる。
左右から巨乳美少女ふたりに挟まれて、はたから見れば両手に花のハーレム状態だろう。
「結婚……高橋が、春花と結婚? ぐ、ふざけ、ッッ~~」
光良は、怒りを抑えるのに必死だった。
本当は、ヒステリックに叫び、俺を馬鹿にしまくり罵声を浴びせたいに違いない。
でも、愛する春花の前とあっては、そんな醜態は晒せない。
光良は歯を食いしばり眉間に縦ジワを刻んで握り拳を震わせながら、怒りに耐えていた。
その姿がいい気味すぎて、撮影したかった。
「高橋、お前、嘘だよな?」
光良が、親の仇を見るような目で俺のことを睨みながら、謎の圧力をかけてくる。それにいち早く答えたのは、ノエルだった。
「嘘ではありません。タカヤがAランクになったら、二人は結婚するのです」
途端に、光良の表情は水面に水滴を垂らしたように一転した。
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