第13話 Cランク冒険者から上は次元が違う
俺とノエルは、春花に連れられてジムを出た。
「そういえば春花、次の試合っていつなんだ?」
「う~ん、まだ決まっていないよ」
「そうなのか? なぁ、そういえば俺、試合のセッティングとかランクアップとか、詳しく知らないんだけど、説明してくれないか?」
車の走る道路に沿って歩きながら、俺は尋ねた。
「全部闘技者協会が決めるから、そこはなんとも言えないんだよね。試合は大きく分けて三種類。協会が客を呼べそうなマッチングをして、誰との試合が決まったから出るようにって言ってくる場合。事務所同士で互いの選手を戦わせたいって協会に申請して、許可が下りる場合。あとは協会が自由参加の大会を主催した時にエントリーする場合だよ」
「ランクアップも上が決めるのか?」
「うん。誰相手に何回勝ったらって規定はないよ。ただ、明らかに実力に見合わないランクだったらファンからもクレームがつくし、不当な評価はないっていわれているね」
確かに、俺は実績のないFランク闘技者だけど、デビュー戦で格上のDランクに勝ったことで、いきなりEランクにランクアップした。
「あ、勝敗だけじゃなくて、試合内容も重要だよ」
「同格相手でも圧勝したり、各上に負けてもほぼ互角だったらランクアップできるってことか?」
「そうそう。呑み込み早いよ孝也」
好意的な笑みで褒められて、少し心が緩んだ。
高校を卒業してから、ずっと不遇だったせいか、ちょっと心のセキュリティが甘くなっている気がする。
「それで、俺が一年以内にAランクにならないと春花は親の決めた男と結婚させられるんだよな?」
「あ、覚えていてくれたんだ。もしかして本気になってくれた? ボクのために?」
歩きながら、春花は俺にしなだれかかってきた。目元が、無邪気に輝いている。
「ちげーよ。ただ元同級生が困っているみたいだし、ちょっと気になっただけだよ。どうせ、しばらくは闘技業界で鍛えるつもりだしな」
「そんなこと言って、ボクにメロメロなんじゃない?」
左右の手首をおへそ辺りで交差して、春花は両腕で豊満なバストを挟み上げた。
当然、背後ではノエルが真似している。やめなさい。
「ボクら付き合っている設定だし、偽装デートするぅ? ボクがキミに本気になる可能性もゼロじゃないよ?」
「んぐっ……」
春花が肩を寄せてくる。
肩越しに伝わる春花の体温。寄せて上げられて強調される童貞殺しの豊乳。誘うような眼差し。
俺も男なわけで、春花にそういうことをされると、男性ホルモン由来の衝動が、下半身で蠢いてしまう。
今日から同じ家で過ごすとなれば、なおさらだ。
「か、からかうなよ。お前の将来がかかっているんだから。それでどうなんだよ。実際のところ、俺が一年以内にAランクに上がるのって可能なのか?」
「キビシィ」
「厳しいのかよ!」
ビシッと言葉でツッコんだ。
春花は、流石に真面目な顔を作った。
「問題は試合回数と内容だよ。孝也はEランク。Aランクになるにはランクを四つ上げないといけない」
「毎試合ランクアップしても最低四試合だな」
「うん、だけど、よっぽどの人気選手でもない限り、試合はせいぜい月に一回程度。それだって、毎回勝てばランクアップできるような相手とも限らないしね」
「格下相手なら昇格は絶望的。同格でもハードルは上がるよな。それに、俺がBランクに勝てるかは、かなり怪しいぜ」
昨日の試合で、俺の戦闘力がDランク冒険者に通じるのはわかった。
それは嬉しい誤算だ。
けど、Cランクから上は別次元だ。
「冒険者業界のことを悪くは言いたくないんだけどさ、Dランクってくすぶる冒険者が多いんだよ」
「そうなの?」
「ああ。一生、中堅のDランク止まり、なんてのも珍しくない。そこから真面目に努力した奴だけが、熟練のCランクに上がれるんだ。ダラダラ停滞しているDランク冒険者と違って、Cランク冒険者は本物だ。次元が一個違うよ」
久しぶりに冒険者業界について語ったせいか、少し饒舌になってしまう。
中学時代、冒険者業界について熱弁して、女子に引かれた苦い経験を思い出して、我に返った。
でも、春花は引いてなんていなかった。
むしろ、得意げな顔をしていた。
「やっぱり、元冒険者を引き抜くボクの考えは間違っていなかったね。餅は餅屋。そうした情報は助かるよ」
これからも頼りにしているよ、と付け加えて、春花は俺の背中を叩いて来た。
「頼りにって、話を聞いていたか? 冒険者高校卒業したばっかの俺がどうやってCランクやBランクに勝つんだよ?」
「そこはほら、ノエルの乳歯から作った武器と、あとは今後もノエルとのタッグで行けば」
「ん、タッグ戦は昨日だけじゃないのか?」
「うん。協会がキミのソロ試合を組んできたら応じるけど、基本的にはノエルのパートナーとしてキミを売り出していくし、協会にもそう打診するつもりだよ。これも人気を得るための戦略だよ」
「ノエルと一緒なら、格上の相手と試合を組めるってことか?」
「相変わらず理解が早いなぁ。闘技は人気商売。協会も、派手で人気で客を呼べそうな試合を組みたがるからね。あの戦闘民族ドラゴニュートの選手ってだけでもインパクトは大だよ。その相棒なら、たくさん試合を組んでくれるだろ?」
「それ、いわゆる【じゃないほう芸人】みたくならないか?」
闘技者として成功したいわけじゃないけど、【ノエルじゃないほう】として世間から覚えられるのは嫌だ。
「はは、安心してよ。だってキミ爆発魔法の使い手じゃないか。ほら、キミのこと、結構話題になっているよ」
言いながら、春花はスマホの画面を見せてきた。
爆発魔法と言えば、俺が冒険者ギルドをクビになった諸悪の根源だ。
モンスターの素材を大きく傷つける爆発魔法は、大型モンスター以外には使い勝手の悪い、ピーキー魔法であることが判明している。
爆発魔法と人気が何か関係あるのかよ、と思いながら、しぶしぶ覗き込むと、俺は目を疑った。
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