第11話 元Fランク冒険者VSドラゴニュート少女
「やぁー」
全体重を乗せた俊足の踏み込みから生まれた運動エネルギーを、腰で回転させながら、肩、肘へ伝え、俺に当たる直前、手首のスナップを利かせて、しなるように爪を振るってくる。
しかも、それを連続で、適格に。
これほどの技術は、一年以上も格闘技を習い続けても、身につくようなものじゃない。
――なるほど、流石は最強の戦闘民族だ。
「よし、いいぞ。ただ攻撃が直線的過ぎる、フェイントも使え。あと敵との距離をコントロールするように。こうやって!」
俺は、ハルバードを短く持って、切り上げた。
迷わず、ノエルは半歩下がって避け、カカトで制動をかけた。つまり、動きが止まった。
それを見逃さず、俺はハルバードを素早く突き出した。
カカトで制動をかけてしまったノエルは、すぐには回避行動を取れない。
「っ」
強引に背骨をひねって上体を逸らして、ノエルはハルバードの穂先を避けた。
彼女のウエストを、紙一重で穂先が通り過ぎた。
「近距離攻撃を避けさせてから本命の中距離攻撃。基本戦術のひとつだ」
「はい」
「じゃあ次だ。ノエル、近接魔法を使っていいぞ」
「では、お言葉に甘えて」
ノエルの右手から熱気が立ち上り、火の粉が噴いた。
——来る!
「ボルカンパンチ」
彼女の拳から、火山の噴火を思わせるような勢いで爆炎が吹き荒れた。
その爆発力に合わせて、俺はわざと背後へ飛んで、勢いを逃した。
それでも、顔には熱気が張り付き、魔法の威力を証明してくれる。
「ノエル」
「はい」
攻撃の構えを維持したまま、ノエルは答えた。
「お前、強くなるぞ。確実に」
ノエルのまぶたが、少し持ち上がった。
「ほんとう、ですか?」
エメラルドグリーン色の瞳に希望を宿すノエルの声には、喜びが滲んでいた。
まだ浅い付き合いだけれど、彼女には珍しいと思う。
それだけ、嬉しいんだろう。
「嘘は言わないよ。つうわけで、時間いっぱいまでやるぜ」
「はい!」
頷くと、ノエルはマグマのようなオレンジ色の光を翼に帯びて、突貫してくる。
俺は、それに真正面からぶつかった。
◆
二時間後。
春花に止められて、俺らは訓練を切り上げた。
「二人ともお疲れ様。はい飲み物」
ベンチに戻ると、春花が缶ジュースを差し出してくれる。
ノエルにはピーチジュースを、俺には、スポーツ飲料だ。
「ありがとう」
——なんだか、運動部のマネージャーみたいだな。
缶ジュースの口を開けて、一気に喉に流し込む。汗をかいたあとの冷たい飲み物はありがたい。
「んく、んく、おいしいです」
ノエルも、ご満悦の様子だ。
「じゃあ、シャワーを浴びたら昼食を食べに行こ」
シャワールームへと案内するつもりなんだろう。
春花は、俺の手を握ると、引いて歩いた。
「おい、いま俺、汗かいているから汚いぞ」
「いいじゃない別に」
「いいってお前」
――なんだか、スキンシップが多い気がする。
元から気さくな奴ではあるけれど、そういうのとは少し違う気がする。
そういえば、昨日も試合が終わった時、妙に熱っぽい視線を向けてきたけど、まさか俺の戦いぶりに一目ぼれしたとか? 流石にないか。
「それにほら、ボクらって恋人設定なんだし、少しはそれらしくしないとじゃない?」
「あ、そういうことな……」
酷く納得して、俺は肩を落とした。
いや、なんで肩を落とすんだよ。
残念に思う必要なんてない。
確かに、春花は凄い美人だ。
超絶美人で、口調と表情が可愛くて、豊満なおっぱいで、先見性と行動力があって、俺と同じで自分の夢のために努力を惜しまない子だけど、勝手に俺を闘技者や恋人に仕立て上げたり、勝手に引っ越しを決めてくる、自分勝手な女だ。
見てくれは最高だけど、付き合おうとは思わない。
人間、大事なのは中身だ。
そう、自分に言い聞かせながら、俺は男子シャワー室のドアをくぐった。
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今回、短くてすいません。
ちょっと区切りの良さの都合でこうなってしまいました。
申し訳ないです。
設定 まとめ
●闘技
武器、魔法を使った戦闘試合。
●闘技場
闘技を行う場所。
●闘技者
闘技の選手。
●高橋・孝也(たかはし・たかや)
主人公。冒険者の最高峰、ドラゴンスレイヤーを目指していた元Fランク冒険者だがギルドをクビになる。
現在は何の因果かドラゴニュートのノエルと組んで闘技者になる。
・得意武器・ハルバード
・得意魔法・爆発魔法
1爆炎魔法エクスプロージョン:火炎がメインで広い範囲を焼き払う。
2爆砕魔法ブラスト:衝撃波がメインで硬い物を粉砕する。
3爆轟魔法デトネイション:火炎、衝撃波、ともに強力な大技。
●桜森・春花(さくらもり・はるか)
ヒロイン。長身黒髪ロングヘアーの豊乳美少女。闘技者事務所社長兼プロデューサー。
闘技者マニアで将来の夢は、闘技者事務所の社長になって自分の事務所からSランク闘技者を輩出すること。
大学に通いながら闘技者事務所を経営、プロデュースをする天才美少女。
●ノエル
ヒロイン兼マスコット。ピンク髪ツーサイドアップの美少女。小柄だけど巨乳のいわゆるトランジスタグラマー。
ドラゴニュートの少女で、戦闘時はドラゴンの翼を生やし、手をドラゴンの装甲で覆った半竜化モードで戦う。
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