第6話 元Fランク冒険者VS元Dランク冒険者
石橋が絶句した。
俺の振り下ろしが、予想よりも速かったらしい。
石橋は驚いた顔で立ち止まると、左手のスモールシールドを掲げた。
ハルバードの槍刃部分が、ななめに構えた盾に当たって弾かれる。
素早くハルバードを引くと、間髪を容れず、刺突の体勢に入った。
石橋の武器はショートソード。
リーチは、ハルバードの方が上だ。
なら、俺が一方的に攻撃できる間合いを保つのがセオリーだ。
石橋を近づけさせないよう、突き放すようにハルバードを突いた。
「素人の突きが当たるか!」
石橋は首と身をひねって、俺の突きを避けた。
穂先が、石橋の肩をかすめる。でも、それで構わなかった。
——よっ。
手首を回して、ハルバードの穂先を反転させながら引いてやる。
すると、真上を向いていた鉤爪が下を向いて石橋の肩甲骨あたりに引っかかる。
「うおっ!?」
石橋は予期せぬ力の加わりに、つんのめった。
正面からの突きを避けたら、何故か背後から前に引き倒される。モンスターとの戦いでは、まず経験しない攻撃だろう。
石橋がうつぶせに倒れると、俺はまたも間髪を容れず、ハルバードを持ち上げた。
戦闘の基本は止まらない事。常に動く事。攻撃と攻撃の切れ目をなくす事だ。
ハルバードの質量を、ノエルが強化してくれた筋力と瞬発力で、容赦なく振り下ろした。
うつぶせの石橋は、Dランクの肩書に恥じない反応速度で体をひねると、左手の盾で、ハルバードを正面から受け止めた。
でも、それは悪手だ。
ハルバードの【斧部分】が、スモールシールドに激突した。
弾ける火花と響く金属音が、俺の会心の一撃を証明してくれた。
いくら斧でも、金属の盾を粉砕することはできない。
石橋のスモールシールドは、斧刃から主を守り切った。
けれど、盾を支える腕は違った。
顔の前に掲げた盾の裏面が、高速で石橋の顔面にブチ当たった。
「ぶげっ!」
——なんだ、Dランクの割に大したことないな? いや、むしろ逆か?
斧やハンマーなどの大質量攻撃は、受けずに受け流すのが鉄則だ。
けれど、Dランク冒険者で、しばらく対人戦から遠ざかったせいで忘れたのかもしれない。
逆に、冒険者高校でクラスメイトと戦い続けた俺にとっては、記憶に新しい知識だ。
——もしかして、イケるのか?
「そんな!? 石橋が!?」
コート姿の片山は、上空のノエル目掛けて火球を放ちながら驚愕した。
もっとも、ノエルは妖精のように空を舞い踊り、華麗な体さばきで火球を避けていた。
「ノエル! こいつは任せた! 俺はあいつをやる!」
「うん!」
俺は芝生を疾走すると、一息に跳躍しながら、ハルバードを掲げた。
「ふっ、馬鹿ですね。そんな力圧しで私の魔法を敗れるとでも思いましたか!」
片山が、右手のダガーを前に突き出した。
途端に、青白い光のドームが展開されて、片山を守った。
左手のダガーでは、別の魔法を準備している。
あのバリアでハルバードを受け止めて、俺の体勢を崩してから、左手の攻撃魔法で畳みかけるつもりだろう。
でも、そんなことは許さない。
冒険者業界を、オワコンだの沈む船だのと馬鹿にしたこいつらに、容赦なんてしない。
俺は、全力でハルバードに魔力を注ぎ込むと、破壊力に特化した【爆砕魔法】ブラストに変換していく。
怒りと裂帛の気合いを込めて、ハルバードを振り下ろす。
斧刃がバリアに衝突するのと同時に、爆砕魔法を発動させた。
紅蓮の爆炎と光りが辺りを包み込んで、アリーナ中に爆音が轟いた。
穂先に伝わる破砕の感触と共に、ハルバードは振り抜けた。
爆煙が晴れると、後に残ったのは、芝生が吹き飛びむき出しになった地面の上に倒れる片山の姿だった。
ブラストは、ドラゴンやゴーレムを強靭な巨躯を破壊するための魔法だ。並大抵の防御魔法で、防げるわけもない。
地面からハルバードを引き抜き振り返ると、何故かノエルと石橋も、別の爆心地にいた。
ノエルの右手は、ドラゴンの手に変化していて、メラメラと炎をまとっていた。
「ボルカンパンチ」
むふーん、と息を吹いて胸を張っている。かわいい。
どうやら、向こうも爆発系魔法でトドメを刺したらしい。
——ん、待てよ。石橋も片山も倒れているってことは……。
『試合終了ぉおおおおおお! 勝利したのは、まさかの桜森事務所チームぅ!』
試合終了のブザーが鳴って、客席が湧いた。
みんな、まさかの大番狂わせに大盛り上がりの様子だ。
「すげぇ! あいつ本当にFランクかよ!?」
「最高だったぞ高橋ぃ!」
「た・か・や! た・か・や!」
「爆発魔法なんて生で見たの初めてだな!」
「ねぇねぇあの子すごくない? すごいよね!」
「期待の大型新人登場ってところだな」
万雷の拍手を浴びながら、賞賛の声を受けると、心臓が高鳴った。
客席を見上げ、ぐるりと見渡した。
誰もかれもが、俺に好意的な顔を向け、俺を絶賛してくれる。
石橋たちにお金を賭けていたであろう人たちも、少額だったのか、悔しそうにしながらも、拍手を送ってくれる。
これだけの声援は、Dランクどころか、Cランク冒険者だって受けられないだろう。
まるで、Sランク冒険者にでもなったような、仮初の高揚感に、体温が高まるのを感じた。
他人に認められて褒められる。
高校を卒業してからずっと不遇で、すっかり忘れていたけど、いいもんだな。
「タカヤ、タカヤ」
ノエルが、とてとてと歩いてきて、俺の手をつかむと、背伸びをしながら万歳をした。
「勝ったのです」
「お、おう!」
ノエルに気づかされて、俺はもう一方の手でハルバードを高々と持ち上げて、声援に応えた。
すると、拍手と声援が、また一段と盛り上がった。
俺が求めていたものとは違うけれど、この高揚感は、クセになりそうだった。
ふと、選手入場口に視線を投げると、俺らの戦いを見守っていた桜森は、胸の左右で握り拳を固めながら、ぽ~っと赤い顔をしていた。
それから、慌てて両手の親指を立てて、ダブルサムズアップを送ってくれた。
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