第47話 動画投稿サイトは究極の戦略兵器


「よく回る舌だ。まさかとは思うが貴様、自分は死なないとでも思っているのか?」


 まずい!


「待てオウカ!」


 彼女の指先が引き金を引こうとしたところで、俺は反射的に声で制した。


 彼女の言う通りだ。オウカは国王とその一派を殺して、日本の旅客機をハイジャックしたテロリストだ。


 でも、クーデターが成った今、これ以上、彼女が人を殺すところは見たくなかった。オウカの優しさを、俺は知っているから。


 けれど、ヒトシの言う通り、このままじゃ、いずれオウカが殺されてしまう。


「どうしたショウタ?」


 引き金にかけた人差し指を止めたまま、オウカは鋭い表情で俺を見据えてくる。


 考えるんだ。


 オウカを止める言葉を。そして、国王派たちを退ける、起死回生の策を。


 俺は、頭の中にある最強異世界転移計画書をかなぐり捨てて、頭をフル回転させた。


 中世ヨーロッパ風の世界観じゃない。21世紀の現代でできる、国王派の人間たちを鎮圧する方法はなんだ!? くそ!


 思いつかない自分が不甲斐なくて、思わずうつむいた。すると、右手に握った、スマホが目に留まった。


 ——そうだ!


 顔を上げて、ミイネに語り掛けた。


「なぁミイネ。お前、俺らの仲間になってくれたんだよな?」

「え? ええそうよ」

「じゃあさ」


 俺は、ミイネにとあることを耳打ちした。


 ミイネの顔が、ニヤリと笑ってから、可愛くウィンクをした。


「いいわよ。その代わり、ショウタも手伝ってね」


 言うや否や、ミイネはスマホを起動させて、自撮りを始めた。


「みんな見てるぅ? パシク国第一王女、ミイネ様よ。今日はみんなに大事な報告があるわ。ワタシ、新政府大臣のショウタと結婚するわ」


 その場にいた全員の顔に衝撃が走った。


 俺も、思わず声を上げてしまった。


「お、おいミイネ、いくらなんでもそれは」

「え~、いいじゃない別に。そんなに照れなくても。ショウタって可愛いわね。あのねみんな、確かに父様が死んだことは悲しいわ。でも、それは仕方ないと思うの」


 神妙な声を作って、ミイネはスマホに語り掛けた。


「父様がどれだけ国民を苦しめてきたか、ワタシは知っている。父様のせいで、数えきれない人たちが死んだわ。でも、それを止められなかったワタシにも責任はあると思うの。だから、ワタシは新政府に協力して、父様がみんなを苦しめた分、パシクを良い国にしたいの」


 明るく語気を強めて、ミイネは叫んだ。


「だからみんなも力を貸して! パシクが住みやすい国になるように、この国に生まれて良かったって思えるような国になるように、みんなの力を新政府に貸して欲しいの! 新政府の連中は、ちょっと乱暴だけど悪い奴じゃないわよ。特に、参謀のショウタはね。何せ、このワタシが惚れた男なんだから! この前、事故で死にそうになったワタシを体を張って助けてくれた時は凄くカッコ良かったんだから! なのに、父様の補佐官のヒトシとか国王派の連中酷いのよ。新政府のメンバーを殺してワタシを担ぎ上げて実権は自分たちが握ろうとして、今日も宮廷に襲撃してきたんだから。どっちがテロリストよって話よね。ほら」


 スマホ画面を数秒、縛り上げられているヒトシたちに向けた。


「じゃあみんな、これからも新政府をよろしくね!」


 そこで、ミイネは撮影をやめると、スマホ画面を何度かタップする。


 そして、唖然とするヒトシたちに言った。


「はい、今の動画、投稿したわ。これで、貴方たちが新政府を脅かす大義名分がなくなったわね」


 してやったりの笑顔に、ヒトシは愕然とした。


「そ、そんな……馬鹿な……」


 俺も、得意顔で言ってやる。


「情報統制や操作なんて古いんだよ。今はネットで、誰もが全世界に情報を発信できる時代なんだ。真実は隠せない。嘘はバレる。お前らの企みはここまでだ」

「う、嘘だ! おま、お前らみたいなテロリストに、この私の計画が!」


 ナナミが、一歩前に進み出た。


「そのテロリストに負けたのはどこのどいつですか?」

「いい加減に認めろ。お前は負けたのだ。一度目はオウカ殿に、そして今度は、ショウタ殿にな」


 カナに続けて、オウカが口を開いた。


「そういうことだ。優秀だろう、私の仲間は」


 ボロボロの顔を、なおも憎しみに歪めながら、ヒトシは叫んだ。


「ぐっ……ショウタ、貴様は一体何者だ!?」

「高校生だよ。異世界転移ラノベ好きのな」


 ヒトシは、断末魔のような絶叫を吐き出しながら、床に突っ伏した。


 こうして、国王派の残党の野望は潰えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 イレイザー社ビルの屋上で、究極のゾンビ生体兵器、ドーントレスは滅びた。

 

 鈴木鉄平の放ったマグナムが脳髄に致命的なダメージを与え、細胞の再生プロセスを失ったのだ。


「■■■■■■■■■■■■■■」


 巨大な肉塊のような体をデタラメに収縮させながら、粘り気のある水音と、そしてこの世と生まれてきた自身への怨嗟の混じった奇声を発し、ドーントレスは屋上の端に転がっていく。


「や、やめろ! この化物め! 誰が貴様を作ったと。あ、あ、あああああああああああああああああ!」


 ゾンビウィルスを作り出した製薬会社、イレイザー社の社長は、ドーントレスの巨体に圧し潰された。


 そして、巨体は完全に沈黙した。


 最後のソレは、自身を生み出したことへの復讐だったのか、それとも生みの親へ救済と求めたのか、今となってはもう、なにもわからない。


 近くでは、墜落したCP社製のヘリコプターが燃えている。

 

 それ以外は、なんの音もない、沈黙の世界だった。


 沈む夕日の赤と、そして自身の血に染まりながら、鈴木鉄平は膝を折った。


『テッペイくん』


 かつて助けた美少女たちが、鉄平を抱き止めた。


 その体にはもう体温が無く、鉄平の最期が近いことを教えてくれる。


「みんな、今までありがとう。俺は、ここまでらしい……」

「やだ、やだよテッペイ君!」

「そうだよ、そんなこと言わないで!」

「やっと平和になったのに!」

「テッペイ君、ヒーローになりたかったんでしょ! これからだよ!」


 彼女たちの涙を全身に浴びながら、鈴木鉄平は晴れやかな顔で目を閉じた。


「いいんだ。だって……夢よりも大事なものを……守れたから……」


 美少女たちの慟哭が、赤い空を駆け抜ける。


 世界は今、鈴木鉄平という偉大な男を失った……。



   ◆



「やぁ鉄平、私は冥界を統べる大女神、ハルディスだ。善行ポイント100万超えの君には異世界チートをプレゼントしよう。なんて言いつつ、世界を救ってほしいんだけどね」


 貴族の洋館を思わせる客間。

 いつの間にか椅子に座っていた鉄平の前で、黒いゴスロリ衣装を着た、紫髪のツインテール美幼女が、怪しくニヤリと笑った。


「そこはアンデッド溢れる世界でね、君のような人材の助けが必要なんだ。チート特典として、言語スキル、識字スキル、アイテムボックススキル、マップスキル、鑑定スキル、そしてユニークスキルである【ゾンビスレイヤースキル】をあげよう。これで君の攻撃はすべてアンデッドに対して有効になる。世界を救ったあかつきには、君の願いを可能な限り叶えてあげるよ。たとえ、地球に生き返る、でもね」


 一方的に話されて、鉄平はまず、心の中で謝った。


 ——ごめん翔太。お前の言葉が正しかったわ。


 いままで散々、異世界転移なんてあるわけないだろと馬鹿にしていた鉄平は、真顔で悔いた。



【ゾンビパニック主人公が異世界入り】近日投稿……しない!


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 最後に女神キャラが必要だったので、同じギャグ作品ということで、MF文庫Jから出版している【無双で無敵の規格外魔法使い】のハルディスちゃんにちょっと出てもらいました。

 今でも電子版が出ているので、興味を持っていただけましたら買ってくれると嬉しいです。

 聖剣を台座ごと引き抜いて振り回している天然美少女とか、ハゲ魔法や腹痛魔法で敵を倒す状態異常魔法の使い手が活躍するギャグファンタジーです。

 

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