第27話 偉人て美談と醜聞どっちもあるよね


 22世紀。


 パシク国は、大統領の葬儀を執り行っていた。


 太陽の眼下、国立公園の一角に建設予定の大霊堂前に建てられた慰霊碑。


 その前には、雲霞の如く群衆が詰めかけ、50ヘクタールを誇る敷地から溢れていた。


 敷地に入れなかった人々は外の通りで、数十キロ先まで渋滞で埋め尽くされた道路の人々は車内で、葬儀のライブ配信を、すすり泣きながら見守っていた。


 慰霊碑の近くに用意された要人用の席には、世界中から集まった王族や主権者、政治家たちが、握り拳を震わせている。


 長年、大統領に仕えた元秘書が、弔辞を手に壇上へ上がる。


 100歳を超える彼は、気丈に振る舞いながらも、空間にAR画面を表示することはしなかった。


 大統領がいつも言っていた言葉だ。

 俺は話す内容は考えるけど原稿は用意しない。読み上げる言葉じゃ何も伝わらない。


 だから、元秘書は、ただ自分の想いを吐き出した。


「貴方がこの国に来る前、私の村は飢えと貧困に苦しみ、誰もが絶望し尽くしていました。ですが、貴方が大統領に就任した日から、世界最貧国のひとつだった我が国は10年でGDPは1000倍に、国民の所得は10倍に、人口は1・3倍に、家畜の数は5倍に増え、識字率は95パーセントを超えました」


 凛と振舞っていた老人は、ここで限界を迎えた。


 彼の眼からは滂沱の涙が溢れ、年甲斐もなく、子供のように嗚咽を漏らしてむせび泣いた。


「餓死者はいなくなり病死する者も激減しました。現在の死亡率は貴方が大統領になる前の10分の1です! 全ての国民が家と職を持ち! 人生と寿命を全うできる国になりました!」


 高齢者を中心に、国立公園中から号泣する声が響き渡った。

 元秘書は老体にムチを打ち、命を吐き出すように、天まで届けとばかりに叫び倒した。


「かつて! 1000万人しかいなかったパシク国民は今! 7000万人を超えています! 今を生きる全てのパシク国民は! 貴方が最初に救った国民が産んだ子供たちです! 貴方は、全ての国民の親であり、かけがえのない人物でした!」


 元秘書官がその場に崩れ落ちて泣き叫ぶと、現在の秘書官たちが彼を連れて行く。


 代わりに壇上に上がったのは、大統領の親族である、若い女性だった。


 人形のように顔立ちが整った、少し無機質な印象を受ける女性だった。しかし、普段は無表情を貫く面差しを、彼女は苦痛に耐えるようにしかめながら、一枚の手紙を開いた。


 いまどきデジタルではない、和紙に直筆で書かれたソレを、彼女はできるだけ平坦な声で、けれど力強く読み上げた。


「ここに、大統領の最期の言葉を伝えます……『この国の大統領でよかった。皆さんはそう思わせてくれる国民でした。私は退陣するけど皆さんの人生はこれからも続きます。家族と、仲間と、自分を愛してください。それと、私が死んでもイベントや業務の自粛はやめてくださいね。景気が悪くなりますから。むしろ、私の旅立ちを祝ってドンチャン騒ぎして経済を回してくれると嬉しいです。じゃあ自分は一足先に妻たちの待つ場所に行きます。みんなはできるだけ遅くゆっくり来てください』」


 女性が手紙を閉じると、彼女の瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。


 参列者の全てがいちように手を合わせ、国立公園は静寂に包まれた。


 大統領は、自粛をしないよう言った。


 けれど、その日の夜。宇宙ステーションの乗組員は奇跡を見た。


「おい、パシクが消えたぞ」


 人口7000万人、世界トップクラスの大国パシクの国土から、電気の明かりが消えていた。


 誰から言うわけでもなく、7000万人の国民の誰もが、ただそうしたかった。

 



 国内外から集まった参列者は途切れることが無く、何日経っても参拝は終わらなかった。一年後の命日、一周忌になっても、なお人々は集まり続けた。


 大統領の職は廃止され。以後は内閣が決めた総理大臣が、大霊堂の前で大統領の任命を受けたという儀礼を行うことになった。


 誰もが感謝していた。大統領が持つ、気高い黄金の魂に……。



   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆



 俺を救ってくれるはずの国王派のアジトがバレて全員逮捕される、という最悪の悪夢から目を覚ますと、左隣にはナナミの足が眠っていた。


 他人と一緒のベッドで上下逆になれるんだよ?


 そして、右半身が妙に熱い。


 パシクは南国なので、寝るときはタオルケットしかかけていないのだが、まるで電気毛布のように温かくて、でも毛布よりもやわらかくて弾力に溢れた、素敵な感触に右半身がむぎゅっと包まれている。


「ん?」


 首を回すと、オウカの寝顔が横たわっていた。


 閉じたまぶたから延びるまつ毛の長さに、目を奪われた。


「ッッ~~~~!?」


 俺の右足に絡むオウカの両足、俺の右腕を挟み込むオウカの豊乳、というか白い下着姿のオウカの美ボディ。


 オウカのまぶたが、やわらかく開いた。


「む? 起きたかショウタ。どうだ、目覚めのキスでもしようか?」

「なな、なんで!? なにがあれして!?」

「昨夜、君を胴上げしていたら落としてしまってな。気絶した君をベッドへ運び、国王派のアジトを襲撃して鎮圧。他のグループの居場所などの情報を引き出すために、逮捕したのだが、君はまだ起きていなかったので、一緒に眠ることにした。なにせ」


 オウカのたおやかな人差し指が、俺の下くちびるをなぞった。


「君を恋に落としている最中だからな」


 希望の象徴国王派が捕まったとか、オウカの下着姿がエロ過ぎるとか、俺のくちびるに触れるオウカが魅力的過ぎるとか、色々な感情がないまぜになりながら、結局、頭の主導権は、毎朝恒例の戦闘モード中の下半身がゲットした。


「お、オウカ、俺!」

「姉様に近寄るなです!」


 ナナミが背後から三角締めを仕掛けてきて、首をしめてきた。


 ナナミの巨乳が背中で押し潰れて、極楽だった。


 ——あぁあああああ! 背中に筆舌尽くしがたい快楽がぁあああああ!


「ナナミ、ショウタは私が認めた男で今は求婚中だぞ。乱暴にするな」

「むぅ……すいませんなのです」


 ナナミの腕から力が抜けると、首をしめられることなく、おっぱいの感触だけを楽しめた。


 右腕はオウカの豊乳、背中にはナナミの巨乳。もう、言うことなしだ。


「しかし、私も反省だ。最近かまってやれなくてすまない」


 言って、オウカは首を伸ばした。俺の頬に自分の頬をこするようにすれ違うと、ナナミの額にキスをした。


「姉様♪ さぁショウタ、今日も姉様のために一緒に頑張るのです!」

「現金だなぁ……」

「そこがナナミのいいところさ。ではナナミ、カナを起こしてきてくれ。ちゃんとパンツをはかせてな」

「はいなのです」

「いやなんで忘れるんだよ」

「カナの奴は裸でないと寝られないたちでな。寝る前に下着を洗濯カゴに入れて、シャワーから上がればそのままベッドにごろんだ。朝、寝ぼけていると、新しい下着を出すのを忘れ、椅子にひっかけているズボンをそのままはいて出かけるのだ」

「最悪のローテーション!?」

「では、私はみんなの食事を作らねばならないので起きるぞ」

「え? オウカが作っていたのか?」


 てっきり、下っ端の隊員に任せているのかと思った。


「全部ではないが、火加減や煮込み具合、味は私が調整しているぞ」

「オウカって、料理得意なんだな」


 なんていうか意外だった。テロリストのボスであれほど威厳に溢れる彼女の姿からは、イメージできない。


「つまり、君の胃袋はつかみ済みというわけか」


 ニヤリと笑うと、オウカは改めて俺の腕を抱き寄せた。


「やはり、厨房まで一緒に行こう。少しはなそうじゃないか」


 身の危険を感じて断ろうとするも、白いブラに強調された谷間が、それを許さなかった。


「はい喜んで」


 男って悲しいよね。

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