第24話 「私のカラダを好きにしていいぞ」「マジ!?」

「そうだ」

「これは、何かの策略か? 政略結婚的な……」

「違うな。確かに、君と結婚すれば、政治的に得は少なくない。だが、私自身、君のことが好ましいのだ」


 一歩近づいてから、彼女は好意的な声音で語り始めた。


「この国はボロボロだった。人々は飢えと病に苦しみ、希望を失っていた。なのに君は、たちどころに食料問題と衛生問題を解決し、近い未来に希望の光を灯していった。収穫できる作物は毎月増える。二か月後には麻から豆と繊維と油も取れる。肥料と石灰で土壌改善が終われば、さらに多くの作物が取れるだろう」


 オウカの声は明るく、楽しげにすら聞こえた。


「未来は希望で溢れている。それらはどれも、私の力ではなし得なかったことだ」

「いや、でも俺は……」

「解っている。脅されて仕方なく、本当は日本に帰りたい、だろ?」


 知っていたのか!?


 てっきり、オウカは人の話を聞かない、思い込みの激しい独走タイプの人間だと思っていた。


 俺を大臣に任命してゴリ押ししたのは、計算だったのか?


「でもなショウタ……君は【変わらなかった】」


 明るい声から一転、オウカの声に悲しみが滲む。


「普通の人間は欲深だ……偉業の立役者達に、自分の名前をねじ込もうとする。自身の些細な功績を過大に宣伝し、実力以上の評価を得ようとする。それどころか、他人の手柄を横取りまでする」


 実体験があるのか、オウカの声には冷たい実感がこもっていた。


 俺も、オウカの言葉に共感した。


 そういう醜い人間は、小学校時代からいたからだ。


 クラスメイトに手柄を横取りされたことは一度や二度じゃないし、些細なことでドヤ顔をしてくる奴も山ほどいた。


 そうして同情していると、オウカの口から、感動にも近い声が溢れる。


「なのに君は、国を挙げて表彰し、千年先まで語り継がれるほどの偉業を次々成し得、なのにそれを誇ることもしない。最初は拉致され仕方なくでも、功績を上げるに従い欲が出て、功績を盾に権力を握り私腹を肥やそうとするのが人間だ。なのに、それでもなお、君は【変わらなかった】。私は、君のような者こそが政治家になるべきだと思っているし、君のような男と添い遂げたい。前にも言っただろう? 謙虚な男は好きだと」


 真摯な瞳で、真っ直ぐ俺の眼を覗き込みながら、オウカは胸を張って懇願してくる。


「だからショウタ。私と結婚してくれ。そして、これからも私と共に、この国の為に尽力して欲しい。私の願いを、叶えてくれないだろうか」

「…………」


 俺は言葉を失い、全力で考えた。


 確かに、ここまで求められるのは悪い気はしない。


 日本で、女子からこんなにも熱烈にアプローチされたことは無かった。

でも、ほだされるものか。


 年齢イコール彼女いない歴で培われた理性が、俺の思考をクリアにしてくれた。


 結婚詐欺でよくある手口だ。


 私には貴方が必要なの。私には貴方だけよ。貴方は特別な存在よ。でも、この手の甘言には穴がある。


そう、俺自身の幸せがどこにも入っていない。


 言い回しで言葉巧みに隠しているけれど、これは言い換えると『お前便利だからあたしの利益のために働けや』だ。取引になっていない。


 結婚だって取引だ。


 金が絡まなくても、愛する人と一緒にいられるという利益があるから人は結婚をするんだ。


 俺は、完全に自分を取り戻した。クレバー翔太の復活だ。


「当然、君にも利益はある」


 ほほう、そんなものがあるなら聞かせてもらおうか。


 心地よい全能感に酔いしれながら、俺は寛大な態度で聞いてやる。


「まず、一国の大臣という地位が手に入る」


 こんな最貧国の大臣になったからってなんだってんだよ。


「国が安定すれば、大臣に相応しい給料は払う。金には困らないぞ」


 こんなラノベもマンガもゲームもアニメもなければポテチやコーラも口にできない国でできる贅沢なんてたかが知れているだろ。


「それに、救国の英雄としてお前の名前はこの国の歴史に刻まれるだろう」


 歴史に名を残したいなんて大望ねぇよ。


 ほらな、魅力的な提案なんて、一つもない。


 俺の願いはただ一つ、早く日本に帰りたい。それだけだ。


「そして、私のカラダを好きにできる」


 なにィッ!?



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 ちょっと雑談的な宣伝を。

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 本作を読んでくれてありがとうございます。

 作者の鏡銀鉢です。


 本作と並行してカクヨムで【冒険者ギルドを追放された俺が闘技場に転職したら中学時代の同級生を全員見返した】を連載中なのですが、驚いたことに、そちらとこちらの一日のPV数がほぼ同じぐらいです。

 どちらも毎日1000回以上PVがあり、助かっています。

 

 ランキングでも、こちらはラブコメ、あちらは現代ファンタジーですが、高評価を頂いています。

 興味を持っていただけたら、一読ください。

 

 デビュー以降、MF文庫Jさんのお世話になっており、複数の作品を同時に連載する、というのは初めてですが、どちらも愛され嬉しいです。

 片方だけ不人気だと作品に申し訳なくなります。

 

 しかしこれも皆さんのおかげです。フォロワーなど応援者様の名前を読むと、両方読んでくれている人もいてテンションが上がります。


 では、わたくしごとが長くなってしまいましたが、感謝ページです。


 ★をつけてくれた

よっちさん  yuma02さん 10041027さん usamarukaitoさん

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 エピソードに♥、応援をくれた

圏外さん farandollさん yuma02さん gyalleonさん nakanaka8187さん 

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皆様、本当にありがとうございました。

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