第23話 男女の役割逆じゃね?
レストランで襲ってきた男100人から追い掛け回されるという悪夢から目を覚ますと、電気の明かりが目を刺してきて、俺はまぶたを下げた。
そこは、宮廷の執務室だった。
ソファから体を起こすと、外はもう暗く、机ではナナミとカナが事務作業をこなしていた。
「お目覚めですかショウタ殿」
「気が付きましたね。姉様が寝室で呼んでいるからとっとと行きやがれです」
「ヤダ、一人にしないで」
俺はソファから降りると、心細さからナナミにすり寄った。
けれど、ナナミは俺の顔を手で突っぱねながら、にべもない声で突き放してきた。
「姉様は一人で来いと言っているのです。つべこべ言わずにさっさと出頭するのです!」
まるで外に蹴りだされるようにして、俺は放り出された。
誰もいない廊下に出ると、孤独の恐怖が追いかけてくる。
思い出すのは、レストランでの一件だ。
まさか、この国があそこまで治安が悪いとは。
治安の悪さは、資料で知っていた。
でも、俺が関わった村や港の人たちはみんないい人たちだから、実感がなくて忘れていた。
刑務所の治安は回復させたけど、街の治安もなんとかしないと、日本に帰る前に殺されちまう。
頭の中で、最強異世界転移計画書から、治安回復のページを開く。
そして、肩を縮めながら、俺は足早にオウカの寝室に向かった。
廊下の窓から、反社会的なお兄さんがたが飛び込んできそうで、気が気じゃなかった。
「治安を回復するにはまず経済政策だ。経済的に豊かになって雇用を拡大して職業斡旋所と職業訓練所を作って、学校で道徳の授業に法律を交えるのもいいな。あとは大人にも法律を周知させてそれから……」
そうやって治安回復の道筋を立てている間に、オウカの私室に着いた。
この奥に、寝室がある。
――でも、なんで執務室じゃなくて寝室なんだろう?
部屋のドアをノックしてから入ると、部屋には誰もいなかった。
最低限の家具しかない、殺風景な部屋だ。
本当は、王様が使っていた部屋を使うべきなんだろうけど、心がイケメンのオウカは『民が貧困に喘ぐ中、何故、贅を尽くしたベッドで眠れる?』と言った。
政治家には、それぐらいの志を持っていて欲しいものだ。
——いや、待てよ。
寝室のドアノブに手をかける瞬間、頭に黒い閃きが走った。
これは何かの罠ではないか? という考えがよぎる。
オウカは、国民を救うためならクーデターをも辞さない女だ。
レストランで俺が襲われたと聞いて、俺が殺されないよう監禁しようとしているのかもしれない。
パシク国発展のため、貴様は終生この宮殿で先進国の知識を捧げ続けるのだ。
そう言って俺を縛り上げ、先進国の知識を紙に書かせ、ノルマを達成できなければ銃で脅してくる。
そんな妄想をたくましくしながら、俺は武器を探して、机の上の鋭利な万年筆を手に取った。
武器を片手にドアノブを回して、トンとドアを突き飛ばした。
俺の前で、ドアが開いていく。
危険な空気を感じたら、すぐ逃げ出せるよう、重心を後ろに傾けて待機していると……。
「待っていたぞショウタ。さぁ、部屋に来てくれ。君に、とても大切な話があるんだ」
俺は万年筆を落とした。
オウカは、セクシーなドレスを着ていた。
刺激的な赤い布地は肩紐タイプで、健康的な白い肩や、深い胸の谷間がむき出しだった。
長いスカートは、けれどスリットが入っていて、彼女の肉感的なふとももが覗いている。
濡れたように艶やかな長い黒髪と、ルビー色の瞳に飾られた美貌は、いつもとは違う、やわらかい笑みを浮かべて、声音も口調も、どこか優し気だ。
「ひゃ、ひゃい……」
あまりの魅力に誘われるがまま、俺は無防備に部屋に入った。
「ドアを閉めてくれ」
頼まれた通り、ドアを閉めると、部屋は俺とオウカの二人きりだ。
寝室で美女と二人。
なんて素敵な響きの言葉だろう。
オウカの美貌と谷間を交互に見てから、右目で美貌を、左目で谷間を凝視するという離れ業をやってのけた。
「タカハシショウタ、私と結婚してくれないか?」
「ケッコン!?」
素っ頓狂な声をあげてしまうぐらい驚いた。
一瞬、同音異義語を探して、結婚の他はせいぜい血痕ぐらいしかないことに気が付く。つまり結婚とは、結婚だ。
「あの、それは夫になれと?」
しどろもどろになって尋ねる俺に、オウカは笑顔で頷いた。
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本作、【美少女テロリストたちにゲッツされました】、を読んでいただきありがとうございます。
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この場を借りて、エピソードに♥、応援をつけてくれた方々に感謝を。
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