第20話 動画がバズッたんだけど……
「パシクには湿地帯がいくつも点在している。この土地を有効活用するために、竹を植えていこうと思う。竹は成長が早くて一日数センチも伸びるし、水をよく吸うから、立派な竹林ができるだろう。竹は体面積あたりのエネルギー生産量が高くてよく燃える。竹一本で200リットルの水を沸騰させることが可能だ。自然破壊と木材不足を避けるために、ガスが通っていない地域では竹を薪にすることで、資材不足と燃料問題に対処したい。じゃあこれからも、新政府の政策に期待してくれ。新政府は、君ら国民の味方だ」
「お疲れ様です、ショウタ殿」
カメラマンのカナがスマホを下ろして、俺は息をつく。
石鹸の作り方や、もうすぐ増えるイナゴの調理方法のような日本の知識動画を撮り終えた俺は、続けて今後の予定を伝える動画を撮影した。
人間は、先の予定がわかると頑張れる生き物だ。
どんなに辛いこともいつ終わるか、ゴールがわかれば耐えられる。
いつどういうご褒美があるかわかると努力できる。
この選択肢を選べばこんないいことをがあるとわかれば、迷わず選べる。
新政府は、問題解決のために、こんないい政策を予定している、となれば、みんな、新政府のことを支持するだろう。
今、撮影した動画を少し編集して、俺はツイチューブに上げた。
すると、ナナミが声を上げた。
「ショウタ、まだ周知させていないのにもう何回か再生されていますよ?」
「まぁお前らが知らないだけで前々からツイチューブを利用している奴はいたんだろ? どれ」
ナナミのスマホ画面をのぞき込むと、俺が石鹸を作って見せる動画が、105回再生されていた。
好意的なコメントも結構ついている。
「お、イイ感じだな。井戸掘りはナナミの村に行って実際に掘るところを見てもらうとして……うん?」
コメント欄の一文に目が留まった。
『テレビで言っていた参謀のタカハシショウタってこいつか?』
『パシク解放軍のメンバーって女だけだし、だろうな』
『へー、こいつが国王を殺したテログループの日本人協力者か。見かけによらず大胆な奴だな』
ああああああああああしまったぁああああああ! テロリストたちの動画に出たせいでますます仲間っぽくぅううううううううう! 顔出ししていないのが救いだったのにぃいいいいいいいいいい!
「姉様、ショウタが倒れているのです」
「長い撮影だったからな、疲れたのだろう。寝かせてやれ」
「いやまだ大丈夫、まだ脅されて仕方なくで誤魔化せる。だいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶだいじょうぶ」
絶望が脳天を貫き、俺は立ち上がる気力もなく、いつまでも自分に言い聞かせ続けるのだった。
――あぁ、早く日本に帰りたい。
◆
一週間後。
200万人世帯のパシク国で、チャンネル登録者数は100万人を超えていた。
国内のスマホの半分は登録していることになるから、大成功だろう。
ただ、奇妙なことに、オウカが出演するPV動画は、どれも2000万回以上も再生されていた。
パシク国民が1000万人だから、全国民が二回ずつ見ていることになってしまう。
コメント欄には、パシク国を王の圧政から解放し、みんなが平和に暮らせる国にしたいというオウカの理念に賛同する書き込みと、オウカの美貌やおっぱいに言及した下世話な書き込みが入り乱れている。
理念に感動して再生しまくっていたら狂信的過ぎるし、オウカ見たさなら馬鹿過ぎて在り得ない。
その原因究明というか、市場調査の名目で、俺とナナミは、彼女の故郷の村を訪れた。
「あらナナミにショウタさん、また来てくれたんですか?」
ナナミの家を訪ねると、ナミカさんが昼食の準備をしているところだった。
「ただいまなのです」
「どうも、あれから村の方はどうですか?」
「どうですかも何も言うことなしですよ」
俺の問いかけに、ナミカさんは嬉しそうに喋りだす。
「井戸は二本目が完成して並ぶ時間が減りましたし、自生しているゴボウは食べ尽くしましたけど、他の野菜を次々収穫し始めているので、飢えずに済んでいます。ゴボウも畑で育てているんですよ。麻なんてもう人より背が高いんですから」
「それはいいですね。あと二か月もすれば食える種と家畜のエサになる葉と、糸、布、紙、エタノール燃料になる茎が採れますよ」
「今更ですけど麻って万能すぎませんか?」
「リアルぼくのかんがえた最強ファンタジー植物だからな」
ちなみに、細かい話なので省いたけれど、実際はさらに何十種類もの利用方法がある。マジでチート過ぎるだろ麻。
「大変なことと言えば、堆肥を混ぜるのがけっこうな重労働でしょうか」
「あ、それなんですけどいいもの持ってきましたよ」
ナミカさんを外に連れ出すと、俺はジープに乗せてきた便利グッズを見せた。
ジャングルジムみたいな細い金属フレームの円筒形を、ビニールで包んだものだ。大きさは、人が中に数人は入れるぐらいだ。
「首都のメーカーに頼んで作って貰った試作品です。回転コンポストって言うんですけど、横に倒して、ここがガパっとまるごと外れるので、ここから土と肥料を半分ぐらいまで入れたら、あとは転がすだけで簡単に混ぜることができます」
「まぁ便利♪ さっそく試してみますね♪」
ナミカさんは、子持ちを感じさせない若々しさでキャーキャー言ってくれた。かわいい。
「それと普段はフタを開けっぱなしにしておいてくださいね。空気と触れさせないといけないので。あと、この家のスマホって今どこにありますか?」
プレゼントを喜んで貰えたところで、俺は本題に入った。
「スマホなら主人が持っていますよ。最近ずっと」
「ずっとって、何に使っているんですか?」
「ショウタさんたちの動画を見て勉強しているそうですよ。うちの主人だけじゃなくて、最近は村中の男の人が休憩のたびにスマホを持って役場に行くんです」
「ママたちは動画を見ないのですか?」
「俺らが勉強して内容を教えるとかなんとか言うから、私たちは楽でいいですけど、そんなに毎日見なきゃいけないものなんでしょうか?」
俺らが投稿した動画は、1つ5分程度の短いモノばかりだ。数も何十本も投稿しているわけではない。
ナミカさんの夫でナナミの父親、ミキヒコさんに事情を聞けば、動画がバズった理由がわかるかもしれない。
俺とナナミは、役場へ向かった。
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