第19話 バカには見えないパンツをはいています!
まずは役に立つ知識動画を作り、拡散し、みんなに新政権に興味を持ってもらってからPVを作ったほうがいい、という俺のアドバイスに従い、まずは石鹸作りの動画を作ることになった。
「それで、実際に作ってみせる役は誰にするんだ? 威厳が損なわれるから、オウカはやめたほうがいいんだけど」
「そうなのですか?」
ナナミが疑問符を口にした。
「ああ。フィクションでは、庶民派の王様キャラというのはいるけれど、現実でそれは悪手だ。威厳が無いと、頼りがいが無くなって、言葉の説得力が失われる。同じ言葉でも、言う人間によって印象はだいぶ違うだろ?」
「確かに、姉様に好きだと言われたら嬉しいですが、貴方に好きだと言われても気持ち悪いだけですね」
「いちいち俺の心を抉るなよな」
この前は俺のお陰で村が救われたって感謝していたくせに、俺がオウカに気に入られた途端、手の平返しやがって。
今度、寝ている隙に何か仕返しをしてやる、とイタズラ心を遊ばせた。
「で、実際誰がやるんだ?」
「ふむ、なればナナミが適任であろうな。被写体は可愛いほうがいいだろう」
「そうですね、ナナミに致しましょう。可愛いので」
「異議なし」
「右に同じく」
「可愛さならナナミですからな」
オウカに続いて、他の隊長副隊長たちも、一様に賛同し始める。
「お前愛されてるなぁ」
「そうです、私は姉様に愛されているのです」
えっへん、と大きな胸を張りながら、ナナミは自慢してくる。
立派な胸に相応しい、自信に溢れたドヤ顔を、俺はじぃっと見つめる。
相変わらず、トップコスプレイヤーも真っ青の、愛らしい顔立ちだ。
「そうだな、お前可愛いからな」
途端に、塩をかけたナメクジのように、ナナミはしゅんとうつむいた。
前髪の隙間から見える顔はりんごのように赤くて、照れているのがわかる。
男から可愛いと言われるのに慣れていないらしい。やっぱり、同じ言葉でも人によって印象は変わる。それに……。
——どうしよう、本当にちょっと可愛くなってきた。
俺からハワイ修学旅行を奪った諸悪の根源だけど、抱き寄せたくなってしまう。
他のメンバーも、照れているナナミを、温かい目で見守っていた。
——ナナミって本当に愛されているんだなぁ。
同時に、みんなのファミリー感が、ちょっと温かかった。
「じゃあ撮影はじめるか。俺は石鹸の材料を持ってくるから、みんなはキッチンで鍋の用意をしていてくれ」
それからややあって、撮影の準備は整った。
カメラは、メンバーの持つスマホの中で、一番画質の良いスマホを選んだ。
場所はキッチンで、ナナミは気を付けの姿勢で立っている。
「よし、ナナミ、じゃあもう動いていいぞ」
俺がスマホを向けながら合図を送ると、ナナミは演技を始めた。
「ほほ、本日はお日柄も良く、よよ、よく」
「いや、そういう挨拶はいらねぇから」
「ででは! 今日は、ぜっけんの作り方を、ほら、あの、あれを、あれする感じで」
「イヤどんだけ緊張してんだよ!?」
灰と水を混ぜて24時間寝かせたバケツを見下ろしながら、握り拳を作って叫んだ。
「ここに、えーと、あー、そのー、灰色の水があります!」
「無理すんな!」
俺がカメラを下ろすと、オウカやカナたち隊長らが囁き合う。
「やはりナナミに演技は無理だったか」
「敬語口調でキャラを作らないと他人と話せない程の上がり症ですからな」
「ナナミ、お前、キャラ作っていたんだな」
「うるさいのですよ!」
顔を真っ赤にして涙交じりに怒鳴るナナミ。
テーブルの上のキッチンペーパーを投げてくるけど、やわらかいので痛くない。
拳銃さえなければ、可愛い奴である。
「仕方ない、ではカナ、貴君がやれ」
「自分でありますか?」
「うむ、可愛さと美しさを兼ね備えた美少女らしさならこの中で一番だからな。頼んだぞ」
「了解です! 必ずやオウカ殿の期待に応えて見せます!」
銀髪ポニテで、紫水晶のように綺麗な瞳の美少女であるカナは、意外にも眼帯を外す配慮を発揮してから、カメラの前に立った。ライフルを背負ったまま。
「なんでライフルは持ったままなんだよ! 怖えだろ!」
俺はカナからライフルを取り上げようとするも、カナは全力で抗う。
「何をする、自分と銃は一心同体なのだ! ぐ、離せ、やめ、やめろぉ!」
「国民が怖がるだろが!」
「だまれぇ! 自分はライフルを抱き枕に眠り、共に湯船に浸かる仲なのだ! パンツを忘れてもライフルは忘れない。それが自分の座右の銘だ!」
「捨てちまえんなもん!」
「それでカナ、今日はパンツを履いているのか?」
「何をおっしゃいますかオウカ殿。自分とてそう毎日はき忘れているわけでは――」
股間をさわってから、カナは絶句した。
みるみる紅潮していく顔に、涙が浮かんでいく。
「はいてますよぉ」
「うそつけぇ!」
「酷い、ショウタ殿は自分を疑うのでありますか! そこまで自分をノーパンにしたいのですか! いいでしょう、ではこの場でズボンを脱いで証明してみせます! 馬鹿には見えないパンツをはいていると!」
「自爆するな! 落ち着け! そしてオウカは何を撮影しているんだ!」
「顔を真っ赤にして涙を流しズボンを下ろそうとする女子をどやしつける男子の図を記録しようと思ったまでだが?」
「何に使う気だ! ああもういい俺がやる!」
キッチンには俺の怒号が響き、カナはうちまたで自分の部屋へと走っていった。
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