第18話 ツイチューブで政治活動


 ナナミが、ワイシャツの半そでを引っ張ってくる。


「ショウタ、そのツイチューブとはなんなのですか?」

「誰でも動画を投稿して、世界中の人が投稿された動画を見られるサイトだよ。そんで投稿者ページにプロフィール書いたり、つぶやきを載せたり、百聞は一見に如かずだ。誰か、スマホ貸してくれ。俺のスマホは通信規格が違うからこの国だと使えないんだよ」

「ほいどうぞ」


 すぐ隣に座るナナミが、ぱっと突き出した。


 ――女子がためらいなくスマホを渡してくるのってなんか新鮮だな。


 まぁ、パシク国と日本じゃ価値観なんて天地も違うと思うけど。


 ナナミのスマホを受け取ると、俺はツイチューブを検索して、てきとうな動画をタップした。


 通信規格の違いのせいだろう。読み込みに、やたらと時間がかかる。


「ほいどうぞ」


 ナナミの口調を真似しつつ、みんなにスマホ画面を見せた。


 画面内では、ツイチューバーが面白トークを喋っている。


 たぶん、初めて投稿動画を目にしたであろう彼女たちは、興味津々に目を光らせた。


「これ、ワンセグじゃないの?」

「いや、こんな番組見たことないわよ?」

「スマホでこのようなものを見られたとは知らなんだ」

「ほう、興味深いな」

「つまり誰でも番組を放送できるというわけですな?」

「ショウタ殿、右側に小さな画像が縦に並んでいるのはなんでありますか?」


 肩に背負ったライフルの位置を直しながら、カナが眉根を寄せた。


「それはオススメ動画だよ。今この動画を見ている人にオススメの動画を紹介してくれるんだ」

「胸の大きな女性が水着姿の動画がオススメなのですか?」

「え? え!?」


 慌ててスマホをひっくり返して見ると、何故かセクシーな動画が一本、オススメに上がっていた。


「ちがっ、ここは時々全然関係ない動画が何故か表示されることもあってだな」

「私のスマホを汚さないでください!」

「拳銃を下ろせナナミ! 引き金を引かなくても暴発したら死ぬから! 俺死ぬから!」


 弾が入っていなくても安全装置が入っていても銃口を人に向けてはいけない。ナナミの頭に、そんな常識は通用しなかった。


 赤面しながら睨んでくるナナミにスマホを返してから、俺は息を整えつつ説明を再開した。


「そういうわけで、ツイチューブを使えば誰でも簡単に情報を発信できる。だからパシク新政府の公式チャンネルを開設して、そこで新大統領就任の動画を流そう。いや待てよ、それよりも先進国知識を紹介する動画を投稿してみんなに見て貰えば、役所が言うことを聞かなくても、農業改革や衛生改革は進むな」


 実際、いわゆるライフハック、日常で使える便利テクや知識系の動画は人気だ。


「首都周辺の街や村の人に、他の地域の知り合いに、ツイチューブ公式チャンネルのURLを添付したメールを送るよう拡散希望すれば、国中に広がるのは時間の問題だ」


 俺の説明に、オウカが喉を唸らせて感心する。


「まるでテレビやラジオだな」

「まぁな、俺も、ラジオ、テレビに次ぐ第三のメディアだと思うぜ」


 むしろ、日本ではテレビがネット動画に負けてきている。


「ショウタよ、これは誰の検閲を受けることもなく、直接動画を発信できるのだな?」

「おう」

「よし、では政権のPVを作り動画を通して我々のメッセージを国民へ届けよう。我らこそが、正統なる新政権だと知らしめるのだ」


 オウカの決定に、全隊長副隊長が頷いた。


 ——もっとも、テレビと違って視聴回数がモロに見えるから失敗した時のダメージもデカイんだけどな。


 再生回数が一桁で、挫折するみんなの姿を想像して、ちょっと残念な気持ちになった。


 大統領がツイチューバーデビューに失敗とか目も当てられない。


「ん? ていうかオウカ、この国、テレビがあるならテレビ局もあるのか?」

「国営放送はあるぞ。そこのインタビューは何度も受けているが、テレビを持っている富裕層しか見ないからな。私の声は庶民には伝わらないのだ」

「インタビューで何を話しているんだよ?」

「今後の展望や新メンバーであるお前のことだ」

「え?」


 ――俺のことって、どういうこと?


「ふむ、ちょうど今が放送の時間だな」


 オウカは、手元のリモコンで、会議室の60インチテレビを点けた。


 画面には、宮廷の一室で撮影したと思われる、オウカのインタビュー映像が流れていた。


 テレビに映っていると、まるでオウカは女優のようだった。


 ——画面越しでもやっぱり美人だなぁ。雰囲気はちょっと威圧的で怖いけど、おっぱいも大きいし足も長くてモデル体型だし。


 ナナミといい、オウカといい、パシク解放軍には美少女が多い。テロリストでなければ、この状況はハーレムなのに、なんて思っていると、画面に映るオウカの言葉に、俺は絶句した。



『独裁者による圧政の時代は終わった。だが、心なき王の犠牲になった民草の生活を立て直すまで、私の戦いは終わらない。安心してくれ、私には心強い仲間がいる。我らが参謀、タカハシショウタも尽力してくれている。我々と彼の活躍に期待してくれ!』



「ッッッ~~~~~~~~!?」


 俺の名前が晒されたぁあああああああ!


『ショウタとは誰ですか?』

『うむ、日本人の協力者だ。彼のおかげで我らパシク解放計画は順調に進んでいる。彼こそ我が最大のブレーンだな。年は17歳だがしっかりした男だ。今は農林水産大臣と環境大臣を任せている』


 いやぁああああああああああああ! 仲間扱いにしないでぇ! 俺のパーソナルデータを晒さないでぇ!


 顔が出ていないのがせめてもの救いか。


 けれど、この放送を日本の家族が、クラスメイトが見たら、余計な誤解を生んでしまうことは確実だ。


 これ以上ボロが出る前に、一刻も早くこいつらとは袂を分かたねば!


 俺は、心に固く、熱く、深く決意した。

  

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