第7話 現代知識無双というか先進国知識無双

 

●本編の前に……↓


登場人物紹介

高橋・翔太(たかはし・しょうた):異世界転移に憧れるラノベオタクの高校二年生。五年がかりで最強異世界転移計画書ノート50冊分を作り丸暗記している猛者。ハワイへの修学旅行中に拉致られパシク国へ。逃げ遅れた理由はナナミの巨乳に魅了されていたからなので弁護の余地はない。


ナナミ:ピンク髪ゴールデンアイ、ツーサイドアップで小柄で巨乳の美少女。いつも敬語だけどすぐに拳銃を突きつけてくる怖い子。

 翔太を拉致った張本人。16歳。


オウカ:翔太を拉致ったテロリスト、パシク解放軍のリーダー。黒髪ロングで豊乳のグラマー美女だけどまだ18歳。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



村に到着する頃、腕時計は、午後三時を過ぎていた。


 日本とパシクの時差は知らないけれど、日本の東に位置するから、もう午後六時は過ぎているだろう。


 けれど、赤道に近い国だけあり、太陽は強く、昼間のようだった。


 ナナミの村は、高床式のログハウスが並ぶ、キャンプ場のような場所だった。


 農村部と言えば、隣の家が数百メートル以上離れているような、人口密度、家屋密度の低い場所を想像していたので、意外だった。


「うちの村は、住宅区を中心に、畑が放射状に広がっている形なのです」


 村の広場に車を停めると、ナナミが説明してくれた。


「へぇ、ご近所付き合いが楽でいいな」

「では、打ち合わせ通りにお願いしますよ。間違っても、拉致されたとか言わないように」


 ナナミは、噛んで含めるように念を押してくる。

 その態度に、ピンと来た。


「お前、もしかして俺を拉致ったのに罪悪感ある?」

「は? なんなのですか急に?」


 ジト目のナナミに、言ってやる。


「少なくとも、家族はお前が反政府組織にいることは知っているんだろ。そこまでは現地民的には正義の活動だ。でも、関係ない外国人を拉致したことは、知られたくないんだろ? つまり、お前自身、悪いことだって自覚があるってことだ」

「う、うぬぼれるなです。自分さえよければいい傲慢な先進国の人間を拉致したからなんだと言うのですか。私はただ、優しいとパパとママに配慮しているだけです」


 ——強がってるなぁ。

 俺を拉致したのは許せない。が、ナナミの隙を見つけると、ちょっと可愛く見えてくる。


 ——ま、こいつに拉致られたって親御さんにバラしても、日本に帰れるわけじゃないし、ご機嫌取りのためにも、話を合わせてやるか。


「おい、もしかしてナナミじゃないか?」

「本当だ、ナナミだ」

「おーいみんなー、ナナミが帰ってきたぞー」


 道行く人々が足を止めて、周囲の人に呼びかける。

 すると、村中から次々人が集まってきた。


 ボロボロの服装が、村の貧しさを物語り、俺はちょっと同情した。

 けれど、誰もかれもが笑顔だった。


「ナナミちゃん、ラジオで聞いたけど、国王を倒したんだって?」

「オウカさんは、新政府を樹立したんだってね」

「流石はナナミちゃん、私たちの誇りだよ」


 村の人たちは、みんなでナナミを褒め、愛でるように頭をなでていく。

 そのせいで、ナナミのストロベリーブロンドがぐしゃぐしゃだ。

 けれど、ナナミは嬉しそうに目を細めて、小動物のようにおとなしかった。


 ——ナナミ、村の人たちから愛されているんだな。


 考えても見れば、16歳の女の子が、国を救うために反政府組織に参加するのって、凄いことだよな。


 今までの話をトータルすると、この国の王は、トンデモない独裁者のようだ。


 リーダーであるオウカの父親も、逆らった罪で粛清されている。


 独裁者の圧政から国民を救うために銃を手に取り戦う少女。そう考えると、ナナミがアニメやゲームのヒロインみたいに思えた。


――もっとも、だからと言って俺からハワイを奪っていい理由にはならないけどな!


「ん、どうしたのですかショウタ、顔が怖いですよ」

「べつにぃっ」

 鼻の頭にしわを集めながら、俺は言い返した。


「ナナミ、その人は?」

「はい、彼は日本人協力者のタカハシショウタなのです。農業に詳しいらしいので連れてきました」


 俺も、表情を取り繕って頭を下げる。

「あ、どうも。日本から来ました、高橋翔太です。日本とは気候と土質が違うとは思いますが、先進国の農業がこの国に通じればと思います。ですが、もしも上手く言ったら他の村にも伝えてください」


 村の人たちから、感嘆の声が漏れた。


「それは助かります。村は慢性的な食糧不足ですからね」

「でも、耕作地帯の半分は薬漬けで死んでいますよ」

「五年前の内乱で除草剤を撒かれて土がダメになったあと、国の薦めで購入した化学肥料と農薬が致命的でした」

「これさえ使えば作物がみるみる実ると言うから有り金をはたいて買ったのに」

「あとから聞いたら、化学肥料を使うと翌年からは作物が実らなくなるとか」


 村の人々はうつむき、顔に陰を落とした。


「あー、化学肥料は硫酸が入っているから土によくないんだよなぁ」


 けれど、化学肥料は即効性があるため、世界中で使う農家が後を絶たない。

 先進国日本でも、それは同じだ。


 でも、この人たちは化学肥料のデメリットを知らされなかったらしい。


 ——日本ならフィクションの鉄板ネタになるような知識でも、この国の人たちはきっと知らないんだな。


 可哀そうな事情に、なんとかしてあげたい、そんな気持ちが湧いてくる。


「それでショウタ、まずは何をすればいいのですか?」

「ん、そうだな。じゃあまずは……」


 ナナミに言われて、俺は頭の中で、【最強の異世界転移計画書】の農業無双ページを開いた。


 けれど、村の人たちの姿が、あらためて目に留まった。


 暑い国なので、みんな、半そで短パン姿なのだが、むき出しの手足は土に汚れ、擦り傷が目立った。


 きっと、畑仕事でついたのだろう。


 綺麗に洗浄しないと、感染症になる可能性がある。


 ——そういえば会議室でもカナが、衛生状況の悪さから病人が後を絶たないとか言っていたな。


 眼帯の銀髪美少女の顔を思い出して、俺は村の人に尋ねる。


「すいません、この村に病人はいますか?」

「そんなの何人もいるよ。けど、医者にかかる金も無いし、金があっても病院は人でいっぱいだから断られるんだ」

「だから治るまで寝てるしかないんです」


 やっぱりか。


「畑仕事の後、体を洗ってますか?」


 村の人隊は、困った顔を左右に振った。

 ナナミが口を挟んできた。


「この村は水源が遠いから、水は貴重なのです。よっぽど汚れたら濡らしたタオルで拭くぐらいです。そもそも、この村にシャワーやお風呂なんて高級なものはありません」


 高級、と言われて、後ろめたくなった。


 俺は、毎日学校から帰ってきたら気軽にシャワーでお湯を浴びて、休日も夕食のあとはお風呂に浸かっている。


 なのに、この人たちは村に風呂そのものがないときた。


 ——これは、農業無双と同時並行で衛生改革も進める必要があるな。


「わかった。じゃあまず水の確保だな。大工仕事のできる人を集めてください。その間、みんなにはやって欲しいことがあります」


 俺は、覚悟を決めてみんなに指示を出した。


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 お知らせ。


 本作『異世界転移だと思った? 残念、途上国転移でした』を読んでいただきありがとうございます。

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