第6話 美少女テロリストたちにゲッツされました


 一時間後。


 俺らは首都から離れ、荒野に敷かれた道路、と言ってもアスファルトで舗装もされていない地面の上を走っていた。


 日差しは強いし、ジープにはエアコンも天井ない反面、向かい風のおかげで、少しは暑さがまぎれる。それがせめてもの救いだ。


 しかし、新たに騒音問題が発生していた。そう、俺のすぐ隣で。


「というわけで、民を虐げる邪知暴虐の王を倒し、パシク国民を幸せにするべく、姉様は我々を率いて戦ったのです。どうですか? 姉様は凄いでしょう?」

「へいへいそいつは凄いな」

「む、お前、ちゃんと聞いているのですか?」

「聞いてる! 聞いてるから銃を下ろせ!」


 こっちは、初めての運転で事故らないか不安で、話なんて流し聞きが精いっぱいだ。


 なのに、ナナミはさっきから延々と、オウカがいかに素晴らしい人物であるかを聞かせてくる。


 うっとうしくてしょうがない。


 ——車は思い通りに動いてくれるけど、やっぱ緊張するな。それにこれ、急にエンストしたりしないだろうな?


 あるいは、何かにタイヤを取られてスリップして事故って、外に投げ出されたり。

 人生初の運転に、不安は尽きなかった。


 本当に、己の運命を恨む。


 ――美少女てんこ盛りの未開拓地で現代知識チートしたいとは思っていた。でも、拳銃を突き付けられて脅されたいとは思ってませんよ神様。ああ日本に帰りたい。


「人の話を聞いているのですか?」

「聞いてる! 聞いてるから銃口を頬にぐりぐりするな、暴発したら死ぬから!」


 他のメンバーと違って、外見の怖さはゼロだけど、どうしても銃には弱かった。


「いいですかショウタ。貴方は人質ではなく日本人協力者、というていにします」

「へ? なんでだ?」

「なんでもです!」


 ナナミの顔色が変わる。ばつの悪さを誤魔化すように、声を荒らげた。


「いいですか、村ではちゃんと働くのですよ。役に立てば、姉様もお前を悪いようにはしないのです」


 その言葉で、俺の中で何かがキュピンと光った。


 ——そうか、これは千載一遇の好機なんだ。これで役に立って連中のご機嫌を取れば、日本に返してもらえるかも。


 そうとわかれば、やる気も湧いてくる。


 ――見ていろよテロリスト共、俺の現代知識フォルダが火を噴くぜ。


 ノート50冊分の異世界転移計画書の力を見せてやると、心の中で意気込むと、不意にナナミがしおらしくなる。


「ショウタ……本当に、お前のやり方に従えば……みんな、お腹いっぱいご飯を食べられるのですか……」

「なんだよ急に?」

「だから……お前の言う通りにすれば、みんな、ひもじい思いをせず、日本人みたいに暮らせるのですか?」

「たぶんな」

「たぶんとはなんですか!?」

「銃を下ろせ銃を! 農業に絶対はないだろ! 天候で不作の年だってあるんだから! 絶対豊作になる方法とか言う奴がいたら信用するな! 俺もしねぇから!」


 釈然としない顔で唸りながら、ナナミは拳銃を下ろした。


「ふん、まぁ、豊かな先進国の知識がどれほどのものか、お手並み拝見なのですよ」


 鼻息を荒くしながら、ナナミはドカッと座席に座って、背もたれに体重を預けた。


「たく、物騒な奴だな。そんなんじゃ嫁の貰い手ねぇぞ」

「お前、人質のくせに態度がデカイですね」


 ジロリと、ナナミの視線が刺さってきた。


「はっ、俺を拉致った連中になんで敬語使わないといけないんだよ」


 下手に出ていたら対等な交渉なんて出来ないしな。

「ところでお前、年いくつだよ? 俺は今年で17だ」

「年? 今年で16歳ですけど?」

「やっぱ年下か。なら敬語はいらないな」

「年齢で人の上下を決めようとするとは、これだから先進国のお坊ちゃまは」


 やれやれ、とナナミは小馬鹿にした顔で首を振った。


「そういや、お前ら若い女しかいないけどなんでだ?」

「それはさっき言ったでしょう。お前ほんとうに人の話を聞いてないのですね!」

「そうだったか?」

「だから、姉様の父親は正義の軍人で、国王に逆らった罪で両親を殺されたあと、一人になった姉様がスラムの少女たちを率いて反政府組織を立ち上げたのがパシク解放軍の始まりなのです。それから、一人では生きていけない弱い少女たちが、売春などに手を染めなくてもいいよう、少女を中心に仲間を増やし、今に至ります」

「そういえばそうだったな」

「そうですよ、あと、姉様にはちゃんと敬語を使うのです。姉様はお前よりも年上なのです、18歳なのです」

「…………え?」


 オウカの美貌と豊乳が、脳裏をよぎった。


「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」

「だからうるさいのです!」


 ナナミの銃口が、俺の顔面を突き回した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 本作【異世界転移だと思った?残念途上国転移でした!】を読んでいただきありがとうございます。

 

 他にも色々投稿しているので、もしよければそちらもお願いします。

 現在、

 【冒険者をクビになった俺が闘技場に転職したら中学時代の同級生を全員見返した】

 を投稿中です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る