第4話 聖女怒りの咆哮! 壊滅のポーカー同盟!
「フォフォフォ……クローバーのキングがやられたようだなぁ」
「ケヒヒ……! 奴など我らポーカー同盟最弱の男」
「その通りだぜ。俺達三人が残っていればまだまだポーカー同盟は安泰……。あ、フルハウス」
「なにぃーっ!!」
むくつけき男が三人、岩山の中に作られた部屋で、ポーカーをしている。
一人はハートマークを腹に刻んだ、でっぷりと太った巨漢。
巨漢ばかり出てくる異世界世紀末であるが、この男は特に大きい。8mくらいある。もちろん、彼の醸し出す威圧感がそう見せているのである。
一人は、立派なモヒカンをした男。
蛮族揃いのこの世界に於いて、伊達男を気取る彼の額にはダイヤのマークが刻まれていた。
どの当たりが伊達かと言うと、モヒカンが色とりどりに染められ、先端にはふわふわしたポンポンがついている。
最後は、腰に銃をぶら下げたテンガロンハットのカウボーイ。
一人だけ世界観が違う。
人呼んでスペードのエースなのだが、本当に彼だけ世界観が違う。
「お三方! 馬車が戻ってきやしたよ! 近くの村の女子供を満載ですよ! きひひ!」
「おお、ご苦労だったなジョーカー」
三人の幹部が立ち上がった。
ポーカー同盟。
この辺り一帯を支配する、盗賊団の頭目達である。
そして、彼らに従うのは道化師の格好をした小男だ。
ジョーカーと呼ばれているが、なるほど、トランプのジョーカーを思わせる姿である。
彼らの前に、檻を改造した馬車が何台も並ぶ。
馬車を引っ張るのは魔導バイク。
悪党どもがバイクから降り、連れてきた女子供を威嚇する。
「おらおらぁ! ここでおめえらはこき使われ、そして別の国に売り払われるんだよぉ!」
「でけえハンドルをぐるぐる回すだけの無意味な仕事もしてもらわなくちゃなあ!」
「ヒャーッハッハッハッハッハ!」
怯える女子供。
これを見て、ポーカー同盟は嗜虐の笑みを浮かべた。
こういうのを見ながら一杯やるのが美味いのだ。
女や子どもたちは、痛めつけると価値が下がる。
だが、彼らポーカー同盟は、趣味の一環として連れてきた者達は痛めつけることにしていた。
「拷問部屋に連れて行け! 無意味に痛めつけるんだ!」
スペードのエースが命令すると、悪党どもは「ヒャッハー!」と盛り上がった。
「おら、歩け! これから特に聞き出すことはねえが、お前らに拷問を加えてやるぜえーっ!!」
なんという邪悪。
吐き気をもよおすような邪悪……!
これこそが、異世界世紀末の辺境における日常であった。
「おや、お待ち下さい皆様。何か聞こえてきませんか?」
ジョーカーが彼らの盛り上がりに水を差す。
「何か、だと?」
ダイヤのジャックが耳を澄ませた。
びゅうびゅうと荒れ地を吹き渡る風の音がする。
いや、それに混じって、何かが聞こえてこないだろうか。
これは……。
「魔導バイクの音だと? なんだ。残った奴らが戻ってきたんだろうぜ」
「いえいえジャック様! この音……どう聞いても、一台しかバイクがございませんよね?」
「なにぃっ!?」
ポーカー同盟は外へ飛び出した。
悪党どももそれに続いて、わらわらと外へ出る。
砂煙を上げながら、ここ、カード盗賊団のアジトへと爆走してくるのは、まさしく一台の魔導バイクだった。
そこには、真っ白な衣をなびかせ、ヘルメットから溢れる金色の髪を、陽光に輝かすサングラスの女。
聖女アンゼリカ……!!
サイドカーには、案内役のシーゲルが収まり、その膝の上には無理を言ってついてきたミーナがいた。
「たった三人で何をしにきやがったんだ!」
「あれシーゲルじゃね? なんか優しそうな顔になってるんだけど」
バイクはアジトの前まで来ると、きちんとブレーキを掛けて止まった。
ミーナが乗っているので安全運転なのだ。
降りてくるアンゼリカ。
彼女はヘルメットを外し、バイクの座席に置いた。
そして、ナス型のサングラスを外し、胸元に差し込む。
「ここですか、シーゲル」
「へい! ここがカード盗賊団のアジトです!」
「よく分かりました。案内ご苦労さま」
「ひええ、もったいないお言葉!」
「がんばれ、聖女様!!」
ミーナの声援が飛ぶ。
「聖女?」
「聖女だあ?」
訝しげに、目の前の彼女を見つめる盗賊達。
風になぶられ、アンゼリカの髪が大きく広がった。
それは、圧倒的な金色。
視界いっぱいを、金の色彩が埋め尽くす。
「馬鹿な! 黄金の聖女とでも言うつもりか! 何をしに来やがった!!」
ダイヤのジャックが叫ぶ。
「まずは名乗りましょう……。私は聖女アンゼリカ。あなたがたを更生させる者です」
「なにぃっ!」
「フォーッフォッフォッフォ!! こりゃあ笑わせる! ボクチン達を更生だってえ!? お前が!? そんな馬鹿な事を言う女は、こうだあ!」
身長8mに見えるハートのクイーン。
その巨躯が、アンゼリカへと襲いかかる!
振り下ろされる豪腕に、誰もがこの、生意気な聖女の最後を幻視した。
いや、二人だけ、そんなものが見えていない者がいる。
「聖女様ぁっ!!」
「やっちゃえ、聖女様!!」
シーゲルが祈り、ミーナが叫ぶ……!!
「そんな無駄なこと! フォーフォーフォー! やつはもうボクチンの腕の下で……下で……した、で……!? フォォォォォッ!?」
クイーンの腕が持ち上がっていく。
それと同時に、クイーンの目の前に、巨大な聖女が顕現する。
「フォオオオッ!? ボクチンと同じ大きさの女だってっ!? ママだってもっと小さいのにっ!!」
「あなたが私に威圧されているだけでしょう。私は何も変わってなどいません」
アンゼリカは、クイーンの腕を押し戻しながら微笑んだ。
そのサイズは、8mに見えるクイーンよりもなお大きい。
「フォォォォ!? ば、ばけも……!」
クイーンの腕を掴んだまま、アンゼリカは上から力づくで彼を押しつぶす。
「ウッ、ウグワーッ!!」
ハートのクイーン、戦闘不能。
「ば、馬鹿な! クイーンが!? だったらこいつでどうだァ!!」
ジャックはどこからか太い鎖を取り出すと、それを振り回した。
遠心力は、鎖の威力を何倍にも高める……!
それを人体に叩きつけようなど正気ではない。
危うし、アンゼリカ!
「チェーンデスマッチですか。懐かしいものです」
アンゼリカは微笑んだ。
無造作に立てられた彼女の腕に、チェーンがまるで巻き取られるように絡まる。
「な、なにぃーっ!?」
「チェーンは武器にもなりますが、使い切れねば己を縛る文字通りの鎖となるのです。このように」
聖女が軽く腕を引くと、ジャックはまるで、釣り上げられた魚のように宙を舞う。
「う、うおわああああああ────!?」
落下地点で、腕を広げて待ち受けるアンゼリカ。
「お、俺を抱きとめる──!?」
「愛の抱擁は……地面となさいな。ボディスラムッ!!」
キャッチしたジャックを、聖女はそのまま地面へと叩きつけた!
「ウグワッ!!!」
大地が文字通り揺れた。
ゴムまりのように、衝撃で弾むジャック。
既に意識はなく、戦闘不能……!!
「こ、この女! 女ァッ!! 何者だお前は!!」
「聖女アンゼリカと申しましたでしょう。拳銃……? この世界にもそのようなものがあるのですね」
アンゼリカは首をかしげる。
そして、悠然と両手を広げてみせた。
「それで強くなれると思うのならば、使いなさい」
「舐めやがってェーッ!!」
スペードのエースが、手にした拳銃を連続で発射する。
銃弾はその全てが、アンゼリカに肉体に突き刺さる……!
「聖女様ァーッ!!」
「来ることが分かっている打撃なら、受け止めればいいのです」
涼やかなアンゼリカの声が響いた。
その肉体から、弾頭が潰れた弾丸がぼろぼろとこぼれ落ちる。
「ば……馬鹿な」
スペードのエースは愕然とした。
咥えていたタバコがぽろりと落ちる。
「発掘品の魔導銃だぞ!? オーガですら仕留める弾丸を、てめえ、どうやって……」
「炸裂の瞬間に筋肉を引き締めただけです。誰にでもできる、初歩的な技術ですよ」
誰にでもできる(誰にでもできるとは言っていない)技術。
アンゼリカは、手のひらを広げる。そこには、潰れた弾丸が握られていた。
それを、人差し指の上に乗せる。
「ば、馬鹿な……! お前、お前は何者……」
指先が、弾丸を弾いた。
その瞬間、衝撃がスペードのエースを真っ向から襲う。
「ウッウグワーッ!!」
エースはそのまま白目を剥き、倒れてしまった。
戦闘不能だ。
彼の後ろに居並ぶ盗賊達も、呆然としている。
「ポーカー同盟のカシラ達が子ども扱い……!!」
「ば、化け物だあ」
対するアンゼリカ、口元をへの字にしながら、指先を見つめていた。
「私もいざ、射撃となると素人ですね。弾丸、弾いただけで粉々になってしまいました」
即ち、スペードのエースを打ったのは、粉砕された弾丸の断末魔たる、衝撃波だったのである。
「それで……次はどなたが私と相対するのですか?」
毅然たる聖女の視線。
「く、くそっ! 相手は女一人じゃねえか!」
「カシラ達は油断したから負けたんだ! 俺らならこの数があれば!」
「押し潰せーっ!!」
盗賊達は、一斉に襲いかかる!
多対一。
だが、たった一人のアンゼリカは、盗賊達にとって巨山の如き大きさに映った。
「ああ……こりゃあ……ダメだぁ」
誰かがそう呟く。
その直後にチョップの暴風が吹き荒れ、その通りになった。
倒れ伏す盗賊達の中……。
ジョーカーと呼ばれた道化師だけが姿を消していたのだった。
こうして、ポーカー同盟とカード盗賊団は、一日にして壊滅した。
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