第26話 国家調合師協会来訪


 魔物ハンターギルドへと戻ってきて、ミースさんに倒してきた人食いマンドラゴラを見せると、彼女は大きさに驚きながらも、それに開いた大きな風穴を見て呆然としていた。


「こ、コレ……何をどうやったらこんな大きな穴が?」


「ヒイラギの魔法だよ。」


「え、ヒイラギさん……魔法も使えるタイプなんですか!?」


「す、少しだけですよ。」


「アタシの目で見た感じ、どう見ても少しって技量じゃなかったけどねぇ。」


「と、とにかく素材の鑑定進めますね。」


 そしてミースさんは、少し人食いマンドラゴラの表皮を削って、液体の入った試験管の中に入れシャカシャカと振った。


 すると、その透明だったその液体が濃い紫色へと変色していく。


「あ、凄い!!普通のマンドラゴラより濃い反応がでてます!!」


「ミースちゃん、それ何してるの?」


「これはですね、この人食いマンドラゴラが薬として使えるのかどうかを鑑定してるんです。」


「ほぇ〜、なんかイケナイお薬の検査みたい。それで、どうだったの?」


「えっと、結果から先にお伝えすると……この人食いマンドラゴラ1体で、普通のマンドラゴラ数十体分の薬の材料になるかと。」


「……ちなみにいくらぐらいになると思う?」


 ゴクッとミカミさんは生唾を飲み込みながら、ミースさんに問いかけた。すると、ミースさんは指を5本立てた。


「白金貨5枚!?」


「……いえ、ご、50枚です。」


「「50枚!?」」


 その膨大な金額に、俺とミカミさんは驚きすぎて、その場でひっくり返ってしまう。


「ひ、柊君……や、ヤバイよ。」


「ヤバいですミカミさん……。」


「あ、あのマンドラゴラはその日によって値段が変わるので、まだ確定した訳じゃないんですけど……。」


「ま、まだ増える可能性もあるってこと?」


「はい。想定より減る可能性もありますけど……。」


 するとミカミさんは、ハッとなってマンドラゴラに開いた風穴を指差した。


「も、もしあの風穴が開いてなかったら、もっと?」 


「おそらくは……。」


「やっちゃったね柊君。」


「し、仕方ないじゃないですか。ミカミさんがやってみろって……。」


「うぐぐ、燃やしつくさなかっただけマシだと思うべきかな。」


 そんな会話をしていると、ギルドに白衣を着込んだ一団が入って来た。


「ん、来たね。」


「久しいなドーナ。相変わらず相応しい男は見つからないか?」


 その白衣を着込んだ一団の先頭にいた、高身長で緑色の髪の女性がドーナさんに歩み寄った。


 ドーナさんとその女性の2人が相対すると、目線の位置がほぼ変わらず、2人の身長は同じぐらいなのが分かる。


「アンタに言われたか無いよ。ステラだって研究一筋で、男に恵まれてなんて無いだろ?」


「まぁ、私は研究と結婚した人間だ。男なんて最初から望んでいないさ。」


「はっ、どうだか……。」


 ドーナさんとそんなやりとりを終えたあと、白衣を着た彼女は俺の方へゆっくりと歩いてくる。


「キミが、今回討伐依頼を受けてくれたヒイラギ君だね。」


「そう……です。」


「で、その肩に乗ってるのが相棒の妖精。」


「ミカミちゃんだぞ〜。」


 パチッと可愛らしくウインクして、そう自己紹介するミカミさん。それに彼女は特に反応することはなく、淡々と話し始める。


「失礼、自己紹介が遅れた。私は国家調合師協会……会長のステラだ。キミたちが討伐してくれた突然変異種のマンドラゴラを買い取りに来た。」


「おっ、そういうことなんだ。いくらで買い取ってくれるの?」


「それは今から決める。ミース君、鑑定で使った反応液を見せてくれ。」


「は、はいっどうぞ!!」


 そして差し出された濃い紫色の液体を見て、ステラさんはほぅ……と興味深そうに声を漏らした。


「通常のマンドラゴラよりも遥かに濃い紫色の反応。これを見る限り、コイツ恐らくマンドラゴラを何匹も食ってるな。実に興味深い。」


 そう話しながら、彼女は人食いマンドラゴラに手を触れると、それに開いた風穴に首を傾げた。


「この穴は……。」


「柊君の魔法さ。」


「なるほど、魔法使いだったか。これだけ巨大化したマンドラゴラを良く魔法で討伐したな。これだけの大きさならば、魔法への耐性もかなりあるはずだが……。」


「まっ、柊君だからそういう事もやれるのさ。」


「……ふふ、何故だろうな。私はこの突然変異種のマンドラゴラよりも、キミに興味が湧いてきた。」


 ステラさんは俺にズイッと顔を近づけてきながら、目の奥を覗き込んでくる。


「あら、ステラちゃん……柊君に惚れちゃった?」


「勘違いしてもらっては困る。私は研究者という職業柄、彼が気になっているのさ。」


 そう言ってステラさんは俺から離れると、今度は後ろに控えていた白衣の一団に声をかける。


「鑑定を始めるぞ。」


「「「了解っ。」」」


 それから色々な器具を使ってステラさん達は、人食いマンドラゴラを鑑定していく。数十分にもわたったそれが終わると、ステラさんはこちらに1枚の紙を持って歩み寄ってきた。


「今回の突然変異種のマンドラゴラ……この1体を白金貨80枚で買い取らせてもらおう。」


「どっひゃー!!」


 とんでもない金額を提示されて、ミカミさんは俺の肩から転げ落ちていく。俺自身、ポカン……として動けずにいると、ステラさんは首を傾げながら口を開いた。


「む、少なかったか?白金貨100枚が妥当だっただろうか……。いやしかし欠損部分があるからなぁ。」


「い、いえ80枚でじゅ、十分です。」


「良し、決まりだな。」


 マスク越しにニヤリと笑ったステラさんは、仲間の1人から大きな袋を受け取ると、こちらに手渡してくる。


「白金貨80枚だ。確認してくれ。」


「あ、ありがとうございます。」


 俺とミカミさんは、2人で白金貨がちゃんと80枚あるのか真剣に数えていった……その結果しっかりと80枚袋の中に入っていた。


 今日だけで目標金額のおよそ3割に到達してしまった……。ほ、本当に目標の白金貨300枚を貯めることができるかもしれない。


 今日の報酬をもらって、俺は目標がこの世界では間近にある……ということを改めて実感したのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る