第24話 マンドラゴラの生息地
すっかりあのルカという女性が見えなくなるぐらい馬で進んでいると、ドーナさんがさっきのミカミさんの要求について苦笑いしながら話し始めた。
「にしても、さっきの一匹狼に対してのミカミの要求……やっぱとんでもなかったねぇ。」
「そう?前に身ぐるみ全部置いて、全裸で踊れって言うのよりもずいぶんマシだと思うけどなぁ。」
「あんな要求されたら、もう仕事にならないさ。多分ヒイラギとミカミの暗殺を依頼した奴は、また別な奴に依頼をするだろうし、そうなったらアイツがその暗殺依頼を受けた奴を倒すってことになる。アサシンギルドの中でも争いが起きるのは間違いないだろうねぇ。」
「それも狙いの一つだよドーナちゃん。あわよくばアサシンギルドっていう存在が潰れてほしいなって思ってる。」
「マジでエグイこと考えるよホント。ヒイラギもそう思わないかい?」
「まぁ、ミカミさんですから……。」
「おやおやおや、柊君。その言い方はちょっと傷付くなぁ。まるで私がエグイことをするのが大好きみたいじゃないか。」
ケタケタと笑いながらミカミさんは言った。
「私はただ、キミに危害を加えようとする輩に厳しいだけさ。キミのことを大切に思ってるが故の行動なんだよ?」
「失礼しました。」
「うんうん、わかってくれて何より。」
機嫌をよくしたミカミさんは、俺の頭の上に乗っかって、両手でわしゃわしゃと頭を撫でてきた。そんなやり取りをしていると、ドーナさんが目の前に見えてきた山を指さして言った。
「ちなみに、目先に見えてきたあの山が人食いマンドラゴラが現れた場所だよ。」
「おっ、じゃあこのまま直行しちゃおう。別に町で準備を整える必要はないからね。」
「ミカミさん、それは一向に構わないんですけど……。」
「あれ?どうしたのかな柊君?」
「そ、そろそろ俺の股間が、げ、限界を迎えそうで……。」
馬具を何もつけていない馬だから、馬が一歩踏み出すたびに股間に馬の背骨がゴリゴリとめり込んでいて、そろそろ限界を迎えそうだった。
「あわわ、そ、そういう事は早く言うんだよ柊君っ!!キミの
そしてようやく馬から降りて、俺たちはここから徒歩で山を目指すことになった。しばらく股間がじんじんと痛み、小股で歩くことしかできなかったが、何とか山の麓に辿り着くことができた。
「ここまで来てやっと治まってきた……。」
「念のため、後でちゃんと
そんな冗談をミカミさんが不安そうな表情を浮かべながら言ってきた。
「その確認は自分でやりますよ。」
「ホントに?後でちゃんと大丈夫だったかは報告してね?」
やっぱり冗談ではなかったのかもしれない。この人なら本当にやりかねない。
「アンタ達、ここからはもう人食いマンドラゴラのテリトリーなんだから、もうちょっと緊張感もちなよ。」
「あっはは、ごめんねドーナちゃん。でもピンピンに張り詰めた空気じゃ面白くないでしょ?さっきのルカちゃん程狡猾で強くはないだろうから、大丈夫だって~。」
「魔物ハンターで現場に入ってこんな空気感の奴、今まで見たことないよ。」
若干呆れ気味のドーナさんと一緒に山に入っていくと、早速ドーナさんが足元に何かを見つけた。
「あ、ヒイラギそれ踏まないように気を付けるんだよ。」
「え、これですか?」
ドーナさんが指さしたのは、青々と元気に揺らめく大きな2枚葉の植物。
「それが生きてるマンドラゴラだよ。」
「ほぇ~これが金貨50枚かぁ。」
「ミカミさん、間違っても採っちゃダメですよ。」
「わかってるって~。……ちなみにだけどさドーナちゃん、これって引っこ抜く方法が特殊だったりするの?」
流れるようにミカミさんはドーナさんにマンドラゴラの採取方法を聞いていた。
「採取自体は簡単だよ。スポって引っこ抜くだけでいいからね。ただその後の工程が面倒なんだよ。乾燥させたりとか……。」
「そっかぁ、面倒ならいいや。」
「その言い方、アタシの目が届いてないところでやろうとしてただろ。」
「まっさかぁ~、そんな悪いことをしようなんて思ってないよ?」
「ぜんっ……ぜん信用できないね。今回はヒイラギのことを見てようと思ったけど、ミカミから目を離さないようにしたほうが良いかもねぇ。」
2人がそんなやり取りをしていると、俺の危険察知が右の方から危険が迫っていることを教えてくれた。
「なにか……来る。」
右手にナイフを構えて危険察知が反応してる方向をジッ……と警戒していると、木々の間からビュンと風切り音を立てて、太い蔓が飛んで来た。
「ふっ!!」
それに向かってナイフを振り下ろすと、ザクッ……と心地よい音を立てて蔓の先端が切り落とすことができた。切り落とされた蔓は地面に落ちると、釣り上げられた魚のようにビチビチと跳ねまわっている。
「ま、まだ生きてる?」
足元でのたうち回るそれを見下ろしていると、今度はたくさんの危険をさっき蔓が飛んできた方向から感じた。それとほぼ同時に、10本以上の蔓がこちらへと飛んでくる。今度はその蔓の先端に、凶悪な牙を備えた口がついていた。
「くっ!!」
俺が自分でできたのは、自分に真っ先に向かって来ていた一本を切り裂くことだけ。そこから先は俺の体が全部勝手に動いてくれた。噛みつこうとしてくる蔓を躱しながら切り落とし、ぐんぐん前へと進んでいく。
そしてすべての蔓を切り落とす頃には、俺は視線の先に巨大なマンドラゴラの姿を捉えていた。ドーナさんが見せてくれたマンドラゴラとは違い、こいつは凶悪な顔つきで蔓を切り落とされたことに対してずいぶん怒っているようだった。
「キィィィィヤァァァァッ!!」
「ぐぅっ……耳が壊れそうだ。」
マンドラゴラの叫び声は、耳をふさがなければ鼓膜を破壊されてしまうようなとんでもないものだった。それと同時に、マンドラゴラの周りの何もない空間に魔法陣が大量に出現する。
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