第23話 刺客の正体


 俺たちのことを襲撃してきた女性を縄で縛って木に吊るした後、ミカミさんとドーナさんは彼女を丸裸にする勢いで持ち物を漁っていた。


「どう?ドーナちゃん、この子の身分証みたいなのあった?」


「あ~、ステータスカードはないねぇ。まぁアサシンギルドの刺客だろうから、自分の身元が割れるようなものは持ってないと思うよ。」


「そんなものかなぁ。下着の内側に何かあったりしないかな?」


 するとミカミさんは、もぞもぞと彼女の服の内側に潜り込んでいく。そして服の内側を走り回るハムスターのように彼女の全身を巡った後、胸元から何かを手にやっと顔を出した。


「ぷはっ、あったよぉ~この子の身分証。」


 そう言ってミカミさんが手にしていたのは、片目に刀傷のある狼の姿が彫られたエンブレム。それを見たドーナさんがぎょっ……と驚いた。


「片目の狼のエンブレム!?ってことはコイツ……アサシンギルドのトップアサシンのに間違いないよ。」


「一匹狼ぃ?いろいろ拗らせちゃってる?」


「一匹狼っていうのは、アサシンギルドの実力ナンバーワンの奴に語り継がれる称号みたいなもんだよ。」


「へぇ、そういうものがあるんだ。」


「で、その一匹狼はいつ如何なる時でも、同じギルドのやつの挑戦を受けられるように、片目の狼のエンブレムを肌身離さず持ってるって話だよ。」


「万が一自分が負けたら、その相手にこのエンブレムを渡せるようにって話だね。」


「そういうことらしいよ。」


「ふぅん、なるほどね。」


 ドーナさんの説明に納得すると、ミカミさんはそのエンブレムをこちらに持ってきた。


「柊君、これ後で質屋に入れよう。なんかめちゃくちゃお金になりそうじゃない?」


「買い取ってくれますかねそんな物騒なもの。」


「もし買い取ってくれなかったら、その時はまた別にこれをお金に化けさせる方法を何か考えるさ。」


 ケタケタと笑いながら、ミカミさんは俺のマジックバッグにそのエンブレムを突っ込んだ。そんなやり取りをしていると、縄で木に吊るして拘束していた彼女が呻き声と共に目を覚ました


「う……ここは、ハッ!?」


「や、おはよう。」


「ぐ、貴様ら私を拘束して何をするつもりだ!!」


「あ、狼ってことは否定しないんだね?キミがアサシンギルドの一匹狼で間違いないことは、よくわかったよ。」


「うっ……こ、これ以上の尋問なら無駄だぞ。もう情報は渡さん。拷問も私には無意味だぞ。」


「あ、そういうのをするつもりはないから安心していいよ。もっとも、そういうのがお望みなら、色~んな方法知ってるから一つ一つ試してもいいケド。」


「っ、じゃあ、なにが目的なんだ。」


11。これが何なのかは知ってるよね?」


「……私に何を要求するつもりだ。」


「う~ん話が早くて素晴らしいね。実は何を要求すれば一番私たちにとって有益で平和的かなぁ~って、さっきまでずっと考えてたんだ。でもキミがアサシンギルドナンバーワンの実力者だってわかったから、これに決めたよ。」


 そう言ってミカミさんはニヤリと笑うと人差し指を彼女の前でピンと立てながら要求を伝えた。


「これからキミには、私と柊君、そしてドーナちゃんの暗殺を請け負った者から私たちを守ってもらうよ。」


「なっ、そんな要求がまかり通るわけが……。」


「世界規約11条で禁止されているのは、自害を要求することと、自分の奴隷になることを誓わせることだけ。つまり……。」


 ミカミさんが言葉を話し終える前に、彼女の前に通知画面が表示された。


『世界規約11条に則り、対象へヒイラギ代理人ミカミの要求を執行します。』


「ば、馬鹿な……。」


「そう、通るんだよねぇ。じゃあそういう事で、これから私達のボディーガードとしてしっかり働いてね、?」


「ぐっ、こうなったら……。」


 舌を嚙み切って自害しようとした彼女だったが、そんな意思に逆らうようにビタリと行動が止まってしまう。


『要求を満たしていないため、自害することはできません。』


 そんな風に通知画面に表示された文字が切り替わると、彼女はギリリと音が鳴るほど強く歯を食いしばった。


「く、クソっ……。」


「ダメだよルカちゃん。これはキミに与えられた罰であり罪なんだ。しっかり償ってね。キミがそうなってしまったことが、他の人に対して見せしめにもなる。柊君に手を出そうとしたらどうなるか……キミがこれから世間に知らしめるんだよ。」


 ミカミさんは要求を伝えていた時の、ニコニコの笑顔とは真逆の凍った表情で、ルカという女性に向かって言った。


「さて、じゃあこっちの要求は伝えたし、私達はそろそろ行くからね。」


 ミカミさんがパンパンと手を鳴らすと、驚くことに先程馬車から逃げてしまった2頭の馬が戻ってきた。そして俺とドーナさんの前で膝をつく。


「ま、まて!!この拘束はどうするつもりだ!!」


「え?自分で何とかしてよ。悪いけど私達、先を急いでるんだよね。ほら柊君、ドーナちゃん馬に乗って。くらとかあぶみが無いからちょっと乗り心地は悪いかもだけど。」


 ミカミさんに言われるがままに馬の背中に跨ると、馬はゆっくりと立ち上がった。


「それじゃあね~ルカちゃん。」


「あ、お、おいちょっと待て!!本当に行くのか!?」


 ミカミさんが俺の肩に乗って手を振ると、それを合図に俺とドーナさんを乗せた馬は走り出した。

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