第22話 アサシンギルドからの刺客


 気まずい空気の流れる馬車に揺られて少し経った時……突然危険察知が反応し、周りから嫌な気配を感じた。


「……!!何か……来る。」


「どうしたんだいヒイラギ?」


「ドーナさん、何かが馬車を狙ってるかもしれません。」


「何だって?近くからそんな気配は何も……。」


 不思議そうに辺りの様子を見ようとしていた、ドーナさんの背後から、強く嫌な気配が伝わってきた。


「っ!!ドーナさん、すみません!!」


「へ?わぁっ!?」


 ドーナさんの手を引いて、こっちに引き寄せた直後、火のついた矢が馬車を貫通してきた。


「なっ……どこから。チッ、外に出るよ!!」


 俺達が外に飛び出すと馬車に火が燃え広がっていき、あっという間に火達磨になってしまった。


「運転手は……ダメか。殺られてる。」


 火に包まれる運転席には、頭を矢で射られた運転手がぐったりと前のめりに死んでいた。


「何が起こってんだい、こりゃあ……。」


 状況を理解する間もなく、こちらに黒いフードを被った人が1人歩いてくる。体型的に女性のようだが……。


「ヒイラギにミカミ……魔物ハンターのリーダー、ドーナ。1人余計だが、まぁ良いだろう。」


 ブツブツとこちらの名前を言いながら、彼女は腰から忍者刀のような剣を抜いた。


「報酬は、倍額にしてもらうがな。」


 音もなく、目の前で空気に溶けるようにその女性は俺たちの目の前から居なくなった次の瞬間、背後から危険察知が警鐘を鳴らす。


「後ろッ!!」


 後ろを振り返ると同時に俺は体を捻っていた。すると、俺の真横を刃が通り過ぎていく。


「なに……?」


 背後からの奇襲を躱しながら、俺の体は反撃に移り、忍者刀を持っている手を蹴り上げていた。


「ぬぅっ、なかなかやる。」


 蹴られた腕を押さえながら、彼女はこちらからまた距離を取った。そして俺とドーナさんを交互に見やると、ポツリと1つ呟く。


「倍でも割に合わんな……これは。」


 そうポツリと言った彼女へ、ドーナさんは問いかける。


「アンタ、の刺客だね。誰の差し金だい?」


「依頼主の名を言えるわけがないだろう。」


「ハッ、まぁだいたい想像はつくよ。ヒイラギ達のことを恨んでる奴には違いなさそうだからねぇ。」


「想像するのは勝手だ。」


「あぁ、勝手にさせてもらうさ。だからアンタがヒイラギとミカミを狙うってんなら、アタシも相手になるよ。」


 ドーナさんはどこからからガントレットのような物を取り出すと、両腕に着けた。


「どうする?」


「……関係はない。邪魔をするなら殺すだけだ。」


 ドーナさん曰く、アサシンギルドの刺客らしい彼女は淡々とそう告げると、また姿を消した。


 すると、今度はドーナさんの背後に危険察知が発動した。


「面倒な奴から排除するのは定石。」


 背後から振り下ろされた忍者刀を、ドーナさんはガントレットで後ろを振り返りもせずに受け止めた。


「アタシを舐めてもらっちゃ困るねぇ……コレでも魔物ハンターのリーダーやってんだ。この首、そう安くはないんだよッ!!」


 忍者刀を弾きながら、ドーナさんは後ろを振り返り、ガントレットが軋むほど握り込む。


「アタイのも一発もらっときな。」


「…………。」


 そして、ドーナさんの反撃は確かに刺客の女性を捉えた……ように見えた。


「あん?」


だ。」


 その声は俺の背後から聞こえてくる……声が聞こえると同時に、危険察知のスキルが全力で警鐘を鳴らす。


「今度は避けれんだろう。」


 まだ俺は背後を振り向けていない……。でも危険察知のお陰で、刃がどう向かってきているのかは分かる。


 俺の首に彼女の刃がめり込もうとした瞬間……俺の手はいつの間にかナイフを抜いていて、その僅かな首と刃の隙間にナイフを滑り込ませた。


「っ!!馬鹿な……。」


 後ろで驚愕の声を上げる彼女に、ミカミさんが怒気を含んだ声で言った。


「……あのさぁ、私はキミがどこの誰かは知らないけど、キミはどこの誰を狙ってるのか、わかってるんだよねぇ?」


「何を言って……うぐっ!?」


 ミカミさんに一瞬気を取られた彼女へ、俺の体は足払いを仕掛けていた。そして、体勢の崩れた彼女に迫ったのは、ドーナさんのフルスイングの鉄拳だ。


「言ったよねぇ?貰っときなって……さっ!!」


「ぐがはっ!!」


 その一撃はとんでもない威力で、2人を中心にベコン!!と地面が割れる音を立てて、大きなクレーターができてしまうほどだった。


「が……ぁ……っ。」


「おっ、まだ意識がある。なかなかタフだねぇ。」


「それはちょうどいいや。柊君、マジックバッグからポンポンオランを1つ出してくれ。」


「な、何をするつもりなんです?」


「いいからいいから〜♪」


 ルンルンと楽しそうにしながらも、目がまったく笑っていないミカミさんに、大人しくポンポンオランを1つ手渡す。


「そんな餌を待つ金魚みたいに口をパクパクさせて……おねだりしてるのかな?今食べさせてあげるよぉ。」


 そう言ってミカミさんは悪魔的な笑みを浮かべると、抵抗できない彼女の口のなかに、丸ごとポンポンオランを詰め込んでしまう。


「も、モガッ!?んんッもごォッ!!」


「あ、柊君。私の大好物のポンポンオランを吐き出さないように、彼女の口を塞いでくれるかな。」


「わ、分かりました……。」


 もう、こうなったミカミさんは止められない。俺は少しの罪悪感に苛まれながらも、スッと両手で彼女の口を覆った。


「そうそう、ありがと〜。」


「んふ〜〜っ!!ふ〜〜っ!!」


「そんな必死に鼻もひくひくさせて〜、そういうのを見てると……ついイタズラ心が芽生えてさぁ、塞いでやりたくなっちゃうよ。」


 ドスの利いた声でそう言うと、ミカミさんは全身を使って、彼女の鼻にギュッと抱きついて、唯一の息の通り道を塞いでしまった。


 それから3分ほどすると、彼女の意識はすっかり無くなってしまっていた。


「よいしょ、これ以上やっちゃうと死んじゃうからね。柊君、もういいよ〜。ポンポンオランも取っちゃって。」


「あ、分かりました。」


 詰め込まれていたポンポンオランを取り除くと、ようやくか細い呼吸が始まった。


「呼吸も始まったね、安心安心。」


 満足そうに頷くミカミさんに、ドーナさんが問いかける。


「殺さなくていいのかい?コイツ、生かしといたらまた狙ってくるよ。」


「そのことについては心配いらないよ〜。私に考えがあるから……。」


 その後、ドーナさんが携帯していた捕縛用の縄で、ミカミさんの指示のもと彼女を拘束していったのだった。


 この流れ、つい最近経験したような気がするなぁ……。


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