第21話 ブリーフィング


 朝食を同じテーブルで囲み、いったん落ち着いたところで、ドーナさんが今回俺達が討伐する魔物人食いマンドラゴラについて話し始めた。


「今回の標的の人食いマンドラゴラだけど、っていう特別な魔物でねぇ、ちなみに普通のマンドラゴラはこんなもんだよ。」


 そう言ってドーナさんは腰に着けていた小さなポーチから、ミカミさんと同じサイズ感の、人間のような形をした不思議な植物を取り出した。


「変な形の植物~。あ、でも大根とか根菜類でこういう形のやつが、たま~にできたりするよね。」


「ミカミの言ってるってやつがどんなのかはわかんないけど、一応このマンドラゴラは珍しい薬草でね、貴重な薬の材料になるんだ。」


「ちなみにこれ1個いくらするのドーナちゃん?」


「マンドラゴラはその日によって価格が違うけど、だいたいこれ1個で金貨50枚とかするよ。」


「それ1個で金貨50枚も値段するの!?ポンポンオラン5000個分の価値がこんな変な形の草にあるのかい!?見た目的に美味しくはなさそうだけどなぁ~。」


「ん~まぁ美味くはないけど、特定の地域でしか取れない貴重な薬草だからねぇ。ある程度値は張るのさ。今回人食いマンドラゴラが出たのも、マンドラゴラの生息地なんだよ。」


 ドーナさんからそんな事実を聞かされると、ミカミさんの目がキラキラと輝いた。


「このマンドラゴラ、もし見つけたらとっていいの?」


「ダメだよ。国から許可をもらってる、ごく一部の調じゃなきゃとっちゃいけない決まりだ。」


「ちぇ~っ、ダメかぁ。」


「誰でもポンポン取れたら、それこそ質の悪い薬が闇市で出回ったりしちまうからねぇ。マンドラゴラは調合を間違えると、強い毒に変わっちまうんだ。」


「なるほどね~。」


「ドーナさん、一つ質問良いですか?」


「ん、なんだい?」


「今回俺達が討伐する人食いマンドラゴラは薬になったりしないんですか?」


「それは、アタシにもわかんない。ただもし、薬の材料になるんだとしたら……超高額の買い取り価格がついてもおかしくないよ。」


「おっ、それは報酬がもっともっと増える可能性があるってことだよね!?俄然やる気が出てきたじゃないか柊君っ!!」


「そうですね、ミカミさん。」


 そうミカミさんと話していると、ニヤッとドーナさんは笑った。


「人食いっていう箔のついた魔物を倒しに向かうやつの顔じゃないねぇ、まったく。」


「そういうドーナちゃんも楽しそうな顔してるじゃないか。」


「まぁね。でもアタシはマンドラゴラに興味は無いよ。どっちかといえば、ヒイラギ……アンタの戦いっぷりに興味があるのさ。」


「そんなこと言って~、柊君が気になってるなら気になってるって素直に言えばいいのに~。ドーナちゃんは乙女だねぇ~ホント。」


「喧しいよミカミ。」


 プイっと目を背けるようにして、ドーナさんは壁にかけられた時計に目をやった。すると、おもむろに席を立ちあがる。


「さて、そろそろ馬車が出る時間だ。行くよヒイラギ、ミカミ。」


「あ、待ってよドーナちゃ~ん。」


 俺とミカミさんも急いで朝食を全部口の中に突っ込んで、ドーナさんの後を追いかける。そして関所の方に行くと、そこには大きな馬車が停まっていた。


「今回人食いマンドラゴラが出たのは、2つ隣の町の近くにあるマンドラゴラの生息地に指定されてる場所だ。ここからだと馬車で1時間ぐらい揺られるね。」


「なんか準備がいるって昨日言ってたけど、その準備はいらないの?」


「突然変異のマンドラゴラ相手だから、念のため解毒剤とか買うだけだよ。向こうの町でもできる。」


「あ、それならいらな~い。柊君には毒は効かないんだ。」


「耐性があるってっことかい?」


「うぅん、だよ。どんなに強い毒も柊君には効かない。」


「毒無効のスキルなんて、またずいぶん珍しいスキルを持ってるねぇ。まぁそういう事なら、アタシは自前で持ってるものがあるし、別に何の用意もいらないね。」


 俺達が馬車に乗り込むと、乗客は俺たち以外にいないようで馬車がガラガラと音を立てて動き出した。それを疑問に思っていると、俺の考えを読み取ったようにドーナさんが言った。


「この馬車は昨日ギルドで手配した馬車なんだよ。運賃は依頼主が払ってくれてるから心配しなくていい。」


 そう言ってドーナさんは、馬車の座席にごろんと横になり、足を組んだ。すると、ホットパンツを履いているせいで大きく露出している足がさらに主張される。


 アレを直視してはいけないと思い、俺は心の雑念を払うべくスッと目を閉じた。


「ちょっとドーナちゃんっ、やっぱり生足見せつけてるでしょ!!キミの足が魅力的過ぎて、柊君が目のやり場に困ってるじゃないか!!」


「ミカミさん、俺のことを気遣ってくれてるのはわかるんですけど、そういうのは言わなくていいんです。」


 馬車の中というどこにも逃げ場のない空間に、少し気まずい空気が流れた。俺は目を閉じているため、ドーナさんの表情をうかがい知ることはできないが、多分ドーナさんもちょっと恥ずかしそうにしちゃってると思う。


 こんな気まずい空気が1時間も続くのは酷だ……頼む、早く時間よ過ぎてくれ。それか、何か空気の変わるような出来事が起こってくれ。


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