第20話 ドーナのラフファッション


 翌日の朝……ドーナさんとギルドで待ち合わせをしていたので、俺とミカミさんはギルドへと向かっていた。


「いやぁ〜、いい天気だね〜。デートにはもってこいだよ。」


「だからデートじゃないですってミカミさん。」


「いやいや、昨日のドーナちゃんの反応見たでしょ柊君。まんざらでもなさそうだったよ?」


「俺にはちょっと呆れてたように見えましたよ。」


「い〜やっ、あの感じは間違いなく脈アリだね。だって初めて会った時、あんなに勢いよくエール飲んでたのに、まったく表情が赤くならなかったドーナちゃんが顔を赤くしてたんだよ?」


「恥ずかしかったんじゃないですか?公然の面前であんなこと言うから。」


「その可能性は否定できないけど~。」


 なんて話をしていたら、あっという間に魔物ハンターギルドに着いてしまった。朝一で来てみたけどドーナさんもういるのかな?


 ギルドの中に入ってみると、まだ朝早いという事もあって、あまり混みあってはいなかった。


「あっ!!ヒイラギさんにミカミさん、おはようございますっ!!」


「やぁやぁおはようミースちゃん。」


「おはようございます。」


 朝早くから元気なあいさつで俺達を迎えてくれたのは、このギルドの受付嬢リーダーのミースさんだった。


「ミースちゃん、ドーナちゃんってもう来てる?」


「ドーナさんは、まだいらっしゃってないですね。いつもならもう来てる時間なんですけど。どうしたんでしょう。」


 ミースさん曰くまだドーナさんは来ていないらしい。じゃあ軽く朝食でも頼んで待っていようかな……と、酒場のある方に歩みを進めようとすると。


「あっ、ど、ドーナさんおはようございます!!」


「来た来たっ、ドーナちゃんおは……よぉ?」


「……おはよ。」


 後ろを振り返ったミカミさんとミースさんの2人は、なぜか固まってしまっている。不思議に思いながらも俺も後ろを振り返ってみる。


「お、おはようございますドーナさん。」


「おはようヒイラギ。」


 ミカミさんやミースさんが固まっていた原因はおそらくこれだろう。今日のドーナさんのファッションは、威厳のある軍服ではなくラフなファッションで、かわいい猫が刺繍してある赤いパーカーにホットパンツを合わせていた。


 少し恥ずかしそうにしているドーナさんに、我に返ったミカミさんが絡みに行く。


「ど、ど~しちゃったのドーナちゃんっ?そんな可愛い格好で生足見せつけちゃって~。」


「今日は別にギルドの業務もないし、動きやすい格好で来ただけだよ。別に見せつけようと思って着てるわけじゃない。たまたまいつもの服以外に持ってるのがこれしかなかったんだよ。」


 少し恥ずかしそうに、ドーナさんは頬を指で掻きながらそう説明した。するとそんな反応を見たミカミさんは、キラキラと目を輝かせながらドーナさんの周りをパタパタと飛び回る。


「なかなかホットパンツが似合う女の子っていないんだけど、ドーナちゃんのホットパンツは良いなぁ~。むちむちだけど、筋肉の美しさがあって……下手なダイエットで足を細くしてる女の子には無いモノがドーナちゃんにはあるよぉ~。」


 パタパタと飛び回りながら、舐めるようにドーナさんの足とホットパンツとを交互に見て、ミカミさんはうへへぇと表情をだらしなくさせている。


「ミカミさん、それセクハラですよ。」


「だってぇ~、めっちゃ可愛いんだも~ん。」


「あ、あんまり見るんじゃないよミカミ。っ、ほ、ほら朝メシでも食いながら、打ち合わせ始めるよ。」


 恥ずかしさで頬を真っ赤にして、ドーナさんは酒場の方に向かって、何か料理の注文を始めた。それを見ていたミカミさんは俺の肩に戻ってくると、すごくはしゃぎながら言った。


「柊君っ!!あれは間違いないって!!絶対、ぜ~ったいデートを意識してるって!!」


「ミカミさん、さっきドーナさんも言ってたじゃないですか。いつもの服以外に持っている服がアレしかなかったって。」


「にゅふふふ、柊君っ、その言葉本当に信じてるのかい?」


 悪魔的な笑みを浮かべると、ミカミさんは何やら買いたての服についているタグのようなものをどこからか引っ張り出した。


「これ見てよ。」


「何のタグですかそれ……。」


「さっき、ドーナちゃんが着てたパーカーとホットパンツについてたやつ。多分取り忘れたんだと思うから、取ってあげたんだ。」


「はぁ……。」


「でねでね?注目してほしいのはこれなんだよ。」


 そう言ってミカミさんが見せてくれたタグには、購入したことを証明するスタンプのようなものがついていて、日付もしっかりと押してあった。


「これさ、なんだよね~。つまりっ、ドーナちゃんは今日のために昨日……むぐっ!?」


「ず、ずいぶんペラペラと忙しなく動く口だねぇミカミぃ?」


 音もなく、俺の背後に現れたドーナさんはミカミさんを鷲掴みにして、指で口を塞いでいた。


「んむぐぐぐ~!!」


「そんなに口を動かしたいならメシ突っ込んでやるから、こっちに来なっ!!」


 恥ずかしさからなのか、怒りからなのか、顔を真っ赤にしているドーナさんにミカミさんは連れて行かれ、その小さい口にこれでもか……とご飯を詰め込まれていた。


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