第19話 魔道具マジックバッグ


 ギルドを後にした俺とミカミさんは、帰り道に道具屋に立ち寄って少し買い物をしていくことにした。


「あ、柊君あそこだよ〜。」


 ミカミさんが指差した建物には、『道具屋マギカ』と書いてある看板が立て掛けてあった。中に入ると、お客さんがチラホラといて、並べられている品物を物色していた。


「ミカミさん、何を買います?」


「そうだねぇ……まずは色んなものが入るバッグがほしいよね。」


 バッグの売り場を探してみると、意外なことにバッグはの売り場に陳列されていた。


「柊君、あれあれ。」


「収納魔法付与済み?」


「ある一定の量までなら、何でも中に入る便利なバッグだよ。その容量が大きければ大きいほど……。」


「値段も高くなってますね。」


 一番容量が大きいものになると、白金貨3枚の値段がついている。日本円にして300万円か。


「この白金貨3枚の値段のやつだと、最大容量が3tも……。」


「そんなにいるかい?大型の魔物をたくさん詰め込むなら必要かもしれないけど、今の私たちにはこの最大容量300㎏の安いマジックバッグでも十分じゃないかな。」


「ですね。」


 ただこれでも金貨10枚の値段がついている。利便性を考えると、これでも妥当な価格なのかな。


「ひとまず買い物したものをその中に入れておけるし、買っておこうよ柊君。」


「わかりました。」


 一先ずこの道具屋ではマジックバッグだけを購入してお店を後にした。道具屋を出て、少し歩くと次に目指していたお店があった。


「あった鍛冶屋……。」


「そのナイフは扱いづらかったかい?」


「あ、そういうわけじゃなくて……このナイフは魔物とかを倒すのに使って、料理に使えるようなナイフが欲しいんです。」


「なるほどね。キミらしいよ。」


 鍛冶屋の中に入ると、いろんな形の武器と防具がたくさん並んでいた。


「おぉ、武器も防具もいっぱいあるね。柊君が探してる料理に使えそうなナイフは……この辺のラインナップかな?」


 ミカミさんが指さした棚には、比較的刃渡りの短めな、所謂短剣と呼ばれる武器がずらりと並んでいる。


「あ、こういうシンプルなデザインいいですね。包丁っぽくて、値段も……金貨1枚で割とこの中ではリーズナブル。」


「それ一本でいいのかい?」


「今はとりあえずこれ一本あれば問題ないですよ。後はこの砥石もついでに買っていきたいです。」


「うん、キミのお金なんだから自由に使ったらいいよ。」


 ナイフ一本と砥石一つを購入し、俺はミカミさんと一緒に鍛冶屋を後にして一度宿屋に戻った。そこで買ってきたマジックバッグの効果を検証してみることにした。


「じゃあまず、ここにある荷物全部しまってみようかな。」


 エルフのニーアさんから購入した果物と野菜を、全てこのマジックバッグの中にしまってみようと思う。不思議なことに、マジックバッグに物を近づけるとそれがシュッと吸い込まれるように消えてしまった。


「おぉ!!入った…のかな?」


 全ての果物と野菜をマジックバッグの中に入れた後、今度はちゃんと取り出せるのか確認してみる。


「マジックバッグの中から物を取り出すときは、欲しいものを頭の中で思い浮かべるんだよ柊君。試しにポンポンオランを取り出してみるといい。」


 ミカミさんに言われた通り、ポンポンオランを頭に思い浮かべながらマジックバッグの中に手を入れた。すると、手の中に丸い形状のものが収まった。


「あ、本当だ。ちゃんと取り出せましたね。」


 バッグから手を引き抜いてみると、ちゃんと俺の手の中にはポンポンオランが一つ収まっていた。


「使い方は簡単だろう?」


「簡単だし、めちゃくちゃ便利ですね。」


「さ、使い方を理解したところで、私にそのポンポンオランを剥いてくれないかな?買ってきたナイフの切れ味も試したいだろう?」


「わかりました。」


 料理用に買ってきたナイフで軽くポンポンオランに切れ目を入れて、ポンッと果肉の花が咲いたものを一口サイズに切り分けてミカミさんに手渡した。


「ありがと~柊君。あみゅぅ……ん~っ、ふはぁ~。これは何回食べても美味しいよ。で、切れ味の方はどうだったかな?」


「全然悪くないですよ。流石にこっちのナイフには引けを取ってますけど。肉とか野菜を切る分には十分すぎるぐらいです。」


「んみゅっ……ま、キミが感じてるその切れ味の違いは、銘品か数打ちかの違いだと思うよ。あの質屋のおじいちゃんの話だと、その武器にしてる方のナイフは相当良いものらしいじゃないか。」


「みたいですね。」


「いつの時代だって、職人が魂を込めて手塩をかけて作った銘品には、数打ちじゃ敵わない。そういうものさ。」


 ミカミさんはポンポンオランにむしゃぶりつきながらそう語った。


「いつか、料理に使う方のナイフも、職人に頼んで銘品を作ってもらったらどうだい?」


「そういうのも欲しいですけど、それにもまたお金がたくさん必要になっちゃいますね。いったいどれぐらいお金を貯めれば、自分のやりたいことを全部できるようになるのか……。」


300ぐらいあれば足りるんじゃないかな?」


「それ俺が生きてるうちに稼げます?3億円ってことですよね。」


「私たちの頑張り次第じゃないかな?でも不可能じゃないと思うよ。だって今日1日で金貨40枚も稼げたんだから。それに次の依頼の人食いマンドラゴラを倒せれば、白金貨1枚もらえるんだよ?」


「確かに……じゃあ遠い目標になりそうですけど、白金貨300枚を目標にコツコツお金貯めていきます。」


「うんうん、その意気だよ柊君。私も精一杯お手伝いするから、一緒に頑張ろうね。」


 当面の目標は白金貨300枚貯めること……そうミカミさんと話し合って決めた。長い時間がかかりそうだけど、この世界でなら本当に頑張り次第で稼げそうだ。


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