第17話 柊vsグレーウルフ
こちらに飛んできた6つの衝撃波。それが手の届く範囲に入ったと同時、俺のナイフを握っていた手が勝手に動き、その6つの衝撃波を切り裂いて消滅させた。
「ガゥアァッ!!」
その次には、片方の狼が鋭い牙をむき出しにして、俺の喉を嚙み切ろうと飛び掛かってくる。
大口を開けて飛び掛かってきていた狼の下顎に、突き刺さるように膝が入った。その反撃で大きく仰け反った狼の首に、手にしていたナイフが深くめり込む。それを引き抜くころには、その狼は既に息絶えていた。
「ガルゥアァァッ!!」
残ったもう一匹は大きく吠えると、さっきの衝撃波を乱れ打ちしてきた。それに対して俺の体がとった行動は、前進だった。
「おぉぉぉッ!!」
恐怖に自分から向かっていく行動に自分を奮い立たせるように声をあげながら、目の前に迫る衝撃波を切り裂き、すべて無効化して狼へと一気に迫る。
そしてナイフが届く範囲まで詰め寄ると、すかさずナイフを持った手を真横に薙いだ。
「っ!!避けられた!?」
野生の勘というやつなのだろうか、狼は俺が攻撃する直前に大きく後ろに跳んでいた。そのせいで反撃は狼には当たらなかったのだ。
だが、俺の反撃はそれで終わりではなかった。薙いだナイフを跳んで避けた狼へと向かって投げつける。まだ着地していなかった狼はそれを避けることはできず、胸の中心にナイフが深く突き刺さった。
「お見事だよ柊君。よく頑張ったね。」
「はっ…はっ……しょ、正直、衝撃波に向かって自分の意思とは関係なく突っ込んで行った時は、滅茶苦茶怖かったですよ。」
「でも大丈夫だったろう?」
「は、はい。」
呼吸を落ち着かせながら、俺はぐったりと倒れている狼に刺さっていたナイフを引き抜いた。それと同時目の前に通知画面が現れる。
『グレーウルフ♂を2匹討伐しました。』
「あ、やっぱり今倒した2匹がグレーウルフで間違いなかったみたいです。」
「人助けもして、ついでに依頼も達成……まったく素晴らしいね。」
その通知の後、すぐにまた画面に表示されている文字が切り替わり、今度はレベルアップの通知に変わった。
『レベルアップに必要な経験値を満たしたためレベルが上昇し、レベル24になりました。レベルアップしたためステータス情報が更新されます。』
「おまけにレベルも大幅アップ。最高じゃないか。」
「ですね……あっ、そういえばあのエルフの人はっ!!」
レベルアップの余韻に浸る間もなく、俺は地面に座り込んでいたエルフの女性のもとに駆け寄った。
「大丈夫でしたか?怪我とかしてません?」
「は、はいっ、大丈夫です。あの……助けてくれてありがとうございました。」
「間に合ってよかったです。」
彼女に手を差し伸べて立ち上がらせてあげると、まだ足元が覚束ないらしく転びかけて、俺の胸に飛び込んできてしまった。
「おっと、大丈夫ですか?」
「あっ、す、すみません!!あ、足に力が入らなくて……。」
「狼に襲われて、食べられちゃいそうな怖い思いをしたんだ。足が震えても仕方ないさ。」
ミカミさんはポンポンと彼女の頭を優しくなでていた。すると、町の方からたくさんの足音がこちらに向かって近づいてくるのが聞こえてきた。
「悲鳴が上がったのはこっちだよっ!!……ってもう片付いちまってたかい。」
「ドーナさん?」
魔物ハンターを何人か引き連れてやってきたのはドーナさんだった。彼女はきょろきょろと辺りを見渡して、2匹のグレーウルフの死骸を確認し、エルフの女性にも目を向けると、今の状況を理解したらしく大きく頷いた。
「だいたいの状況は理解したよ。彼女がグレーウルフに襲われてるところに、ヒイラギ達が先に駆け付けた。んでグレーウルフを片付けた……合ってるかい?」
「その通り。察しが良くて助かるよドーナちゃん。」
「だからその呼び方は………。まぁいいや、ヒイラギ、エルフの彼女に怪我は?」
「無いみたいです。」
「ん、なら良しだ。グレーウルフはこっちで持ってくから、後のことは任せたよ。」
ドーナさんは巨大なグレーウルフ2匹を片手で持ち上げて、こちらにヒラヒラと手を振りながら町の方へと歩いて行ってしまった。それを見送った後、ミカミさんがエルフの女性に問いかけた。
「そういえば、キミはこれからどこに行こうとしていたんだい?」
「果物と野菜をあなた方のおかげで全部売り切ることができたので、これからエルフの国に帰るところでした。」
「なるほどね、大丈夫?一人で帰れるかい?」
「隣町でお友達と合流して帰るので、大丈夫です。」
「ん、なら安心かな。」
聞きたいことを聞き終えると、ミカミさんは俺の肩に戻ってきた。
「じゃあそろそろ私たちも行くね。道中にはくれぐれも気を付けるんだよ?」
「あ、あのっ、よ、良ければお名前を……。」
「ん?名前かい?私はミカミ、彼は柊君だよ。」
「ミカミさんに、ヒイラギさん……お、覚えました!!わ、私の名前は
「あはは、別にいいんだよニーアちゃん。だって私たちは昨日のお礼を返しただけだから。ねっ柊君?」
「そうですねミカミさん。」
「もしどうしてもお礼がしたいっていうなら、また元気に果物と野菜を売っている姿を見せてくれるだけでいいよ。私たちもその時までお金稼いでおくからさ。あ、ポンポンオランはたくさん持ってきてくれると嬉しいな。あれ美味しいからリピートしたいんだ。」
「~~~っ、わ、わかりました。約束しますっ!!」
そんな約束をニーアさんと交わして、俺とミカミさんは彼女が見えなくなるまで手を振って見送り、町に引き返すのだった。
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