第16話 グレーウルフ捜索開始


「柊君、朝になったよ。起きれるかい?」


「んん……。」


 ミカミさんに声をかけられて俺は目を覚ました。すると胸の上には妖精サイズのミカミさんが寝そべっていて、ニコニコと微笑みながらこちらを見ていた。


「ミカミさんがいる……宿屋の天井……。」


「一回寝て起きて、ようやく今キミが過ごしている時間こそが現実だってことを受け入れられたかい?」


「はい。でも俺、今がちゃんと現実ってわかって嬉しいですよ。ミカミさんがそばにいるし、この世界は不思議に溢れてるし……。」


「ふふ、そう言ってくれると私も嬉しいよ。さぁ、身支度を整えてグレーウルフを探しに行こう。」


 軽く身支度を整え、宿屋の主人に鍵を預けて、俺はミカミさんと一緒に昨日買った果物を朝食代わりに食べながら、グレーウルフを探すために出かけた。


「んみゅっ、確か花畑の奥で目撃されてたって書いてあったよね?」


「ですね、だからここまで来た道のりを戻りながら、さらに奥に向かえばもしかするとって感じですかね。」


「ま、時間はたっぷりあるからゆっくり歩いて行こうじゃないか。」


 通りに出て関所を目指して歩いていると、ちょうど関所のところに見覚えのある軍服のようなデザインの服を羽織った、赤髪で長身の女性が衛兵と話していた。


「ありゃ?あれはドーナちゃんじゃないの?」


「そうみたいですね、何か真剣な表情で衛兵と話してますけど。」


「せっかくだから挨拶していこうか柊君。」


 ドーナさん達がいるところに歩み寄っていくと、彼女もこちらに気づいたらしく手を挙げて挨拶してくれた。


「やぁヒイラギにミカミ。」


「おはようドーナ。」


「おはようございますドーナさん。」


「……ミカミ、そのって呼ばれるのは、ちょいとばかしむず痒いんだけど?」


「おや、そっか……女の子だからね、可愛くをつけて呼んだほうが良いのかと思ったんだけど。」


「むしろそっちの方がむず痒いんだよ。普通にドーナって呼んでくれればいい。」


「ちゃんの方が可愛いと思うんだけどなぁ~。まぁしばらく呼ばれてれば慣れるよきっと!!」


「あくまでも止めるつもりはないってことかい。」


 やれやれと、ドーナさんは大きなため息を吐いた。


「んで、ヒイラギ達は今からグレーウルフを探しに行くのかい?」


「そうです。」


「気を付けて行ってきなよ。魔物はグレーウルフだけじゃないんだから。」


「わかりました。気を付けて行ってきます。」


「良い報告をギルドで待ってるからね。」


 そしてドーナさんに見送られながら俺とミカミさんは関所を出て、この町エミルに来た道を戻っていく。その道中、俺の肩に座っていたミカミさんは、またパラパラと辞書みたいなものを捲っていた。


によるとグレーウルフは体長約2m、灰色の体毛に黄色く光る眼が特徴らしいね。得意な攻撃は爪を振り下ろすことで生まれる衝撃波を飛ばす爪撃そうげきと呼ばれるものらしい。」


「デカい狼ってだけで厄介そうなのに、衝撃波まで飛ばしてくるんですか……。」


「ま、当たらなければどうということは無いってやつさ。」


「どこかで聞いた名言ですねそれ。」


 そんな会話をしながら歩いているうちに、俺は最初目覚めたあの花畑に戻ってきていた。


「昨日は自分に起きた出来事を整理するのに精いっぱいで、あんまり景色に目を向けてなかったけど、改めて見ると、すごく幻想的できれいだ。」


「ね、とてもきれいな景色だと私も思うよ。」


「グレーウルフはこのさらに奥にいるんですよね?」


「情報によるとそうらしいね。でも行商人が襲われたって被害があるわけだし、整備された道にも姿を現すんじゃないかな?」


「じゃあとにかくこの辺を歩き回ってみたほうが良いですかね。」


 そうして、ここから足を動かしてグレーウルフを探そうかと思っていたその時だった……。


「きゃあぁぁぁぁァッ!!」


 耳を劈くような女性の悲鳴がここまで聞こえてきたのだ。


「悲鳴?柊君、向こうだ。行こう!!」


「わかりました。」


 ミカミさんに指示された方角に俺は走る。すると、自分の体に変化が起きていることに気づいた。


「あれ?俺こんなに足速かったっけ?」


「レベル1の時とは違うんだよ柊君。キミの今のレベルは18で、ステータスも上がってる。今のキミは現代のアスリート顔負けの身体能力になっているんだ。」


 自分の身体能力が著しく上昇していることに驚きながらも、俺は悲鳴のもとにすぐに駆けつけることができた。


「ん?あの人は……。」


 悲鳴の上がった場所に辿り着くと、そこには昨日果物や野菜を売ってくれたエルフの女性がいた。その表情は恐怖に染まっている。それもそのはずで、彼女の目の前には涎をダラダラと垂らしながらグルルと唸り声をあげている巨大な狼が2匹もいたのだ。


「柊君っ、怖気づいていたら彼女が食われてしまうよ!!」


「わかってますっ!!」


 あんな大きな狼の前に出ていくのは怖いけど、その恐怖心を押し殺し、俺は走って彼女と狼の間に割り込んだ。


「あ、あなた達は昨日の……。」


「やぁ、また会ったね。キミはそこを動かないで。ここは私たちに任せてくれ。」


 ミカミさんはそう優しく彼女に語り掛けると、俺の腰に差してあったナイフを抜いて手渡してきた。


「大丈夫だよ柊君、恐れることは無い。一つ深呼吸でもして落ち着くんだ。」


「ふぅ~……。」


 一つ大きく息を吐き出すと同時に、目の前にいた2匹の狼が凶悪な爪をその場で振り下ろした。直後、三日月状の衝撃波が6つこちらに向かって飛んできた。

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