第15話 ギルドでの夕食


 ドーナさんとミカミさんと一緒に一つのテーブルを囲むと、バイルという男の奢りという事もあり、ミカミさん達は容赦なくいろんな料理や酒を頼んでいく。するとあっという間にテーブルの上が料理と酒でいっぱいになった。


「まずは乾杯といこうか。」


 ミカミさんはお酒の入った小さなお猪口を両手で抱きながら、俺やドーナさんがグラスを持っている位置まで一生懸命パタパタと羽根を羽ばたかせて浮き上がった。


「はい、かんぱ~い!!」


「あい、乾杯。」


「か、乾杯。」


 3人でグラスを合わせて乾杯してから、注文したという麦を発酵させて作っているというビールのような酒を口にした。


「ん、結構フルーティーで美味しい。麦の香りもしっかり香ってる。」


「くっはぁ~、どっちかって言うと私はラガー派だけど、ここのエールはしっかりコクがあって美味しいね。」


「だろ?アタシが一番美味いって思ったエールをこの酒場で出してもらってるんだよ。」


 エールを飲みながら俺は、注文したのステーキを口に運ぶ。


「んっ、これも美味しい。肉が柔らかくて、脂も甘い。」


「ただちょっと独特のクセがあるね。イノシシの肉みたいな感じ。エールで流し込むにはちょうどいいかもね。」


 ミカミさん用に小さくステーキを切り分けながら、エミルバッファローのステーキを味わっていると、ドーナさんが質問を投げかけてきた。


「なんでまたヒイラギは魔物ハンターになろうと思ったんだい?」


「やりたいことがあってお金が必要なんです。」


「なるほどね、確かにそういうクチなら魔物ハンターを始めるのは悪くない選択肢かもしれないねぇ。随分腕も立つみたいだし?レベルがある程度上がったらアタシと戦ってみるかい?」


「い、いやそれは遠慮しときますよ。俺は別に戦うのが好きなわけじゃないので。」


「なら好戦的なのは、こっちのミカミってわけだね。」


「んむ?私は柊君のためになるなら、この戦闘は行うべきだと助言をしているだけだよ。」


「どうだかねぇ。」


 ミカミさんへとドーナさんが怪しむ視線を向けていると、俺の前にレベルアップの通知画面が現れた。


『レベルアップに必要な経験値を満たしたためレベルが上昇し、レベル18になりました。レベルアップしたためステータス情報が更新されます。』


「ん、レベルが18に上がった。」


「今18?ちなみに聞きたいんだけどさぁ、ラットたちを倒した時はレベルいくつだったんだい?」


「その時の柊君のレベルは3だよ。」


「3!?よくそんなレベルで今まで過ごせてたねぇ。大人になってそんなレベルなのも珍しいよ。」


「つい最近、柊君はとある事件のせいでレベルが1にリセットされちゃったからね。上げなおしていたところだったんだよ。」


 すらすらとミカミさんは作り話をドーナさんへと話している。何も考える動作もなく、よくそんな作り話が思いつくなぁと感心してると、ミカミさんは俺の視線に気が付いたのか、パチンとウインクして見せた。


「じゃあもともとはレベルが結構高かったってことかい?だからあんな熟練の動きができるって話か。レベルが低い割に洗練された動きな理由がやっとわかったよ。」


「だから資金集めがてら、レベルを元に戻そうって話し合って、魔物ハンターになろうって決断に至ったわけさ。」


「なるほどねぇ、なら尚更この職業はちょうどいいじゃないか。あれだったら何か良い討伐依頼回そうか?」


「おっ、流石は魔物ハンターのリーダーだ。そういうこともできるんだね?」


「アタシ以外の奴じゃ手に負えないやつを回すことになるだろうから、ある程度の難易度は覚悟してほしいよ。ま、バイルを簡単にあしらえる位の腕なら、安心して任せられるけどね。試しに何か見てみるかい?」


「じゃあお願いしようかな。」


「ん、ちょっと待ってな。」


 すると、エールを一気飲みして、ドーナさんは大きな本棚のある方へと歩いて行く。その本棚から一冊のファイルを引っこ抜いてくると、こちらに戻ってきた。


「これが溜まってる討伐依頼なんだけど……。」


「昼間あんなに人がいたのに、ずいぶん溜まっているんだね。」


「魔物ハンターは数多くいても、アタシは一人しかいないからねぇ。1日でこなせる依頼の数には限界があるんだよ。ま、軽く目を通してみて、やりたいやつがあったら言いな。」


「ありがとうございます。」


「さてさて、どんな依頼が舞い込んでいるのかな?」


 ミカミさんと一緒にファイルに保存されていた魔物の討伐依頼に目を通していく。目を通した感じ、この町近辺だけじゃなく、違う町の近くに出没する魔物の討伐依頼も混ざっていた。


「できればこの町の近くが良いよね~。」


「そうですね。」


「この町近辺での討伐依頼なら、この前の討伐依頼が来てたはずだよ。」


「グレーウルフ……これだ柊君。」


 見つけたその依頼に目を通してみる。


「エミルの花畑奥地にて目撃情報アリ……行商人が襲われる被害が3件発生。討伐成功報酬は金貨20枚っ!!」


 この依頼を達成できれば20万円……当分お金には困らなさそうな金額が一発で稼げる。でもこれだけ報酬が良いってことは難しいってことだよな。


「グレーウルフは2匹のコンビで急に現れたらしい。ちなみにグレーウルフの平均レベルは35。本来ならそのレベルより10以上レベルの高いハンターにしか任せられない依頼だけど、ヒイラギの腕ならやれると思う。」


「ちなみにこの報酬って、2匹どっちも討伐しなきゃもらえないのかな?」


「そ、2匹両方とも討伐しなきゃダメだ。」


「ちょっと難しそうな依頼だけど、どうする柊君?」


「失敗したら違約金を払うとか、そういうの無いですか?」


「無いよ。仮に一匹だけの討伐になっても、素材としてギルドで買い取れるから、骨折り損にはならない。」


「じゃあやってみます。」


「わかった。じゃあ受注の手続きはアタシの方でやっとくから、明日にでも探しに行ってみるといいよ。」


 そうして、夕食と依頼の受注を済ませた後、俺はミカミさんと一緒にすっかり暗くなった道を帰って宿屋に戻り、ハオルチアというこの世界での1日目を終えたのだった。


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