第14話 魔物ハンターのリーダーとの出会い


 俺は大男と一緒に酒場の舞台の上に上がった。それを見物にギルドにいた人たちが舞台の周りに集まってくる。歓声が飛び交う中、大男はこの喧嘩のルールというやつを説明してくれた。


「この舞台の上での喧嘩のルールは単純だ。武器の使用は無し、魔法も無し。殴り合って、最初に膝をついた奴が負け。」


「うんうん、至極単純じゃないか。」


「レベル差のハンデが欲しいならくれてやるぜ。片手でやってやろうか?」


「ふふ、無用だよ。キミの方こそ、手加減はいらないかい?」


「なっはっは、口が達者な妖精だ。相棒の妖精はこう言ってるみてぇだが、当人のアンタはどうなんだヒイラギ?」


「手加減はいらないです。それを負けた言い訳にしたくないので。俺もしませんよ。」


「なかなか男気のあるやつじゃねぇか。気に入った。」


 そう言って男はニヤリと笑うと、上着を脱ぎ捨て筋骨隆々な上半身を露わにして拳を構えた。


「オレの名はバイルだッ!!楽しもうぜヒイラギ。お互いに拳を合わせたら開始だ。」


 前にスッと差し出された拳に、俺も手を伸ばして拳同士を合わせると、次の瞬間バイルという男の剛腕が高速で顔面に迫ってくる。


「おっ?」


 それは自動回避のスキルで難なく躱し、繋がるように反撃でバイルの鳩尾に俺の肘が深くめり込んだ。


「ングッ!?」


 深く入った肘鉄は効いたらしく、バイルは眼を大きくひん剥いていた。しかし、この男は倒れずにそのまま俺を見下ろしてきた。


「カハァッ……やるなぁチクショウが!!」


 懐に入っていた俺にバイルは頭突きを飛ばしてくる。それを半歩引いて躱し、振り下ろされる頭に手を添えて頭突きの勢いを増幅させて舞台の床に叩きつけた。その威力はすさまじく、バイルの頭が舞台の床に突き刺さる。


「んがっ!?」


 必死に膝をつかないようにしながら、頭を引っこ抜こうとしているバイル。そんな彼の姿は誰の目から見ても無防備だった。


「おや、柊君。弱点が丸見えのようだよ?」


 ミカミさんはにやにやと笑いながら、間抜けな姿を晒しているバイルという男の股間を指さした。


「ミカミさん、言っときますけどこれ、やる側も少しひゅんってするんですからね。」


「でもまぁ弱点を狙うのはルール違反じゃないからね。やったもん勝ちさ。」


 まぁ、ミカミさんの言うとおりだな。最後は俺の意思で勝負を決めよう。


「じゃあ失礼して……フンッ!!」


 俺は踏ん張っているバイルの股間を全力で蹴りあげた。すると、バイルの体がピーンと硬直した後、だらんと体の力が抜けて床に膝が付いた。


「うひゃぁ~、私にエグいって言っていたけど、容赦なく股間を蹴りあげるキミもなかなかエグいことやってるよ?」


「ミカミさんがやれって言ったんじゃないですか。」


「そうだったかな?」


 ミカミさんがすっとぼけていると、シン……と静まり返ってしまった観客の中から、軍服のようなデザインの服を羽織った長身の女性が、パチパチと拍手しながらこちらに歩いてきた。


「お見事、お見事。バイルとの真っ向からの喧嘩……特等席で見させてもらったよ。」


 彼女は宝石のルビーみたいに真っ赤な髪の毛をなびかせながら舞台の上に上がってきた。


「特出した動体視力と、的確に急所を射抜く反撃……ラット共がやられたのも納得できる。」


 そう言いながら彼女は、驚くべきことに片手で大男のバイルを持ち上げて、床から引っこ抜いてしまった。


「ほら、いつまでもノビてないで起きなバイル。」


 そしてぺしぺしとバイルの頬をひっぱたくと、ようやくバイルの意識が戻ってきたらしく、今の状況に困惑していた。


「ど、さん!?」


「やっと起きたかいバイル。」


「お、オレは……。」


「残念ながらぼろ負けだ。見てた感じ、万一にも勝てる見込みはなかったねぇ。」


「ま、マジすか……。」


「ま、有り金全部用意してそこで待ってな。ちょいとアタシは彼らに用がある。」


 ドーナさんと呼ばれていた女性はバイルのことを下がらせると、舞台の上で俺の方に改めて向き直り、自己紹介をしてきた。


「アタシは、このエミルの魔物ハンター達のリーダー……っていうんだ。よろしく頼むよ。」


「柊です。よろしくお願いします。」


 ドーナさんと握手を交わすと、彼女は俺を赤い瞳で見下ろして、サメのようなギザギザの歯を見せながら凶暴にニヤリと笑う。直後、スキルの危険察知が反応する。


「っ!!」


 咄嗟に身を引こうとするが、彼女と交わしている握手は解けず、その場から動けなかった。


「おっ、殺気にも敏感。こりゃあいくらレベル差があろうが、単純な奴らじゃ敵わないわけだ。」


 彼女はそう分析すると、危険察知に引っかかっていた殺気を引っ込めた。そして胸元からさっき俺が受付で書いた紙を取り出してこちらに見せてくる。その紙にはポンと大きな判子が押してあった。


「ヒイラギ、これから同じ魔物ハンターとしてもよろしく頼むよ。」


「あ、は、はい。」


 ずっと俺の手を握って離さないドーナさんを、見かねたミカミさんがそれを指摘する。


「あのさ、キミちょ~っと柊君に触れすぎじゃないかな?もしかして一目惚れした?」


「んあ?あぁ、悪かったね。久々にギルドに強い奴が来たから、アタシ自身舞い上がって握手してんの忘れてたよ。」


 やっとドーナさんは手を離してくれた。ホッと一息俺がついている間に、ドーナさんはミカミさんに向かって一つ訂正していた。


「アタシが惚れるのは、アタシより強い奴だけだよ。覚えときな、。」


「妖精はもともとチビなものだろう?何を当たり前のことを言ってるのかな?」


「ぐ、体はちっこいくせに口はずいぶん達者だねぇ?」


 軽く論破されたドーナさんは、少し悔しそうにしながら俺の手を引いてきた。


「ま、まぁ向こうで酒とメシでも食いながらちょっと話そうじゃないか。魔物ハンターってやつについてもちょっと説明したいしさ。」


「あ、やっぱり惚れてる?照れ隠しってやつ?若いねぇ~流石ピチピチの25。」


「違うっての!!あんまり煩いとぶっ飛ばすよっ!!後、さらっとアタシの年齢バラしてんじゃないよ!!」


「私にはミカミっていう名前があるんです~。口悪妖精って名前じゃありませ~ん。」


 バッチバチに火花を散らしているミカミさんとドーナさん。魔物ハンターになったから、ドーナさんとは関りが深くなっていくのに……この調子で大丈夫かな。


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