第11話 神と悪魔は紙一重
それから10分ほどの時間が経つと、俺を襲った男2人は目を覚ました。そしてガチガチに拘束されていることに慌てふためく。
「な、なんでこんなに拘束されてんだよ!!」
「~~~っ、ビリィーッ!!テメェ油断しやがって、テメェがやられなきゃ今頃は……。」
「今頃は……か弱~いレベル3のお金を奪ってご飯でも食べに行ってた?」
拘束している2人の前でパタパタと羽根を羽ばたかせながら、ミカミさんはくすくすと笑う。
「さぁ~て、レベルの高い人間が、レベルの低い人間を襲って返り討ちに遭ったら……どうなるんだったかな?もちろん承知の上で襲ってきたんだよね?」
そのミカミさんの言葉に、男2人は表情を青ざめさせていく。すると、金的で気絶した方の男がぺこぺこと平謝りを始めた。
「わ、悪かった!!俺達も金がなくてよ……た、頼むっ!!もう2度と手を出さないって誓うから!!無茶な要求だけは勘弁してくれ!!」
そんな男の反応に、ミカミさんは期待外れとばかりに大きなため息を吐いた。
「はぁ~……つまんな。嘘をいくら並べてもいいから虚勢の一つでも張ってほしかったなぁ。まぁいいや、キミ達に私たちが要求するのは~……。」
そしてミカミさんは、聞いた誰もが体の奥底から震え上がるような恐ろしい要求を彼らに告げた。
「身ぐるみ全部ここに置いて、魔物ハンターギルドまで踊りながら帰って?」
「は、はぁ!?そ、そんな要求冗談……だ……ろ?」
にっこにこで、えげつない要求をしたミカミさん。それが冗談だと思っていた男2人だったが、彼らの前に俺達にも見える通知画面が表示された。
『世界規約11条に則り、ビリーおよびラットに、ヒイラギ代理人ミカミの要求を強制執行します。』
その通知画面が表示されると、2人を縛っていた縄が自然に解け、彼らは自分の意思とは無関係に服を脱ぎ始めた。
「おっと、私は汚いものは見たくないからね。後ろを向いておこうかな。柊君はどうする?」
「俺もそうします。」
ミカミさんと一緒に、くるりと彼らに背中を見せると、背後から喉がはち切れんばかりの大声が聞こえてくる。
「~~~っ!!て、テメェらが要求したことだろうがァッ!!」
「あ、あぁ……なんなんだよこの変な踊りはっ!?体が勝手に踊りやがる!!」
「ほ〜らやんや、やんや~♪手拍子ぐらいはしてあげるよ。だからとっとと私たちの近くから消えてね〜。」
独特なリズムで、ミカミさんはパンパンと手を鳴らす。
「く、クソーーーッ!!テメェら覚えてろよぉっ!!」
「お、オイ、マジで通りに出ちまうぞっ!!」
それから少しすると彼らの声が聞こえなくなるほどに、通りの方から甲高い悲鳴が聞こえ始める。それを聞いてから俺たちはやっと後ろを振り返った。
「ミカミさん、あれはエグいですよ。」
「はっはっは!!小心者の肝を据わらせてやろうという、私なりの優しさだったんだけどなぁ。まぁいいさ、戦利品を回収してここからおさらばしよう。」
俺はミカミさんの要求のエグさにドン引きしながらも、売ればお金になりそうなものをすべて回収し、その路地を後にした。
そしていざ大通りに出てみると、まだ目で見えるところでさっきの男2人が全裸で不思議な踊りを踊りながら、魔物ハンターギルドへとゆっくり向かっていた。
それを脇目で眺めてミカミさんは、つまらなさそうにぼやく。
「踊りもへったぁ〜……あんなんじゃ気分上がんないね。祭り囃子でもあれば、それっぽくなるのかもしれないけど、聞こえてくるのは汚いものを見た女の子の悲鳴ば〜っかり。ちっとも盛り上がらないよ。」
「いや、十分盛り上がってると思いますよ。アレは。」
彼らに背を向けて歩き出すと、前の方から衛兵の人達がガシャガシャと慌ただしく鎧を鳴らして、騒ぎの中心へと向かって走っていった。
「今、衛兵の人達が行きましたけど……大丈夫ですかね?」
「心配ないさ。彼らだって、まさか……自分たちと10倍もレベル差があるキミに負けて、あ〜んなことを強制されてるなんて口が裂けても言えないよ。」
「そうですかねぇ。」
「ま、心配無用さ。っと、柊君そこのお店が質屋だ。」
ミカミさんに指定された店に入ると、そこには剣や鎧等色々なものが売ってあった。
「いらっしゃい、何が入り用だい?」
俺たちが店の中を物色していると、店の奥にあるカウンターから、真っ白な髭を蓄えた初老の男性が声をかけてきた。
「実は物を売りに来たんですけど……。」
「そうかい、見せてみな。」
俺はさっきの男たちから巻き上げた金品を、カウンターの上に置いた。
「ん?こいつは……
「初狩りのラット?」
「自分よりも低レベルの人間を狙って、金目の物を巻き上げる性根の腐った野郎どもさ。まっ、こうして装備品を持ち込まれたってことは、彼奴等にも遂に年貢の納め時が訪れたんだな。」
装備品を一つ一つ眺めながら、彼はさっき俺を襲ってきた男達について軽く教えてくれた。
「この長刀は刃毀れしてるから金貨1枚。こっちの指輪とかそういうのもまとめて金貨1枚……全部で金貨2枚で買い取るぞ。」
「あの、このナイフはお金になりませんか?」
金額に入らなかったナイフについて聞いてみると、彼は俺の目をじっと見ながら言った。
「こいつは、アンタが持ってたほうが良い。買い取れないもんじゃ無いが……こんな質屋で腐らせとくには勿体ない代物だ。」
「そう……なんですか。」
「そこまで言うなら、これは持っておこうじゃないか柊君。それだけの価値がある……そういうことなんだろう?」
そうミカミさんが問いかけると、彼は目を瞑って大きく頷いた。
「儂が保証する。」
「ん〜、良しっ。それじゃあそれだけ手元に残して、後は売却で頼もう。」
「あいよ、金貨2枚だ。」
「あ、ありがとうございます。」
彼から金貨を2枚を手渡しで受け取ると、そのままガッシリと手を握られた。
「儂の名はライル……この店の店主だ。また不用品手に入れたら売りに来な。」
「柊です。その時はよろしくお願いします。」
別れ際のそんな軽い自己紹介を終えて、俺はナイフ1本だけを手元に残して、ミカミさんと質屋を後にするのだった。
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