第6話 造られた肉体、そして……


 お伽噺の中の世界のような光景を見せられた俺は、しばらく言葉を口にすることができなかった。


「こ、この世界に……俺が?」


「はい、今まで柊さんが過ごした世界とは違い、科学が進歩した世界ではありません。その代わりにというものが大きく発達した世界になります。」


 俺がこれから新たな生を受けるという世界について、イリスさんが説明してくれた。


「魔法……ほ、本当にお伽噺みたいな世界ですね。」


 そう説明を聞いていると、俺はふと自分の体に感覚が完全に戻っていた事に気がつく。


「あっ、体が……動く。」


「魂とがしっかりと繋がったようですね。」


「造った肉体?」


「死んでしまった柊さんの肉体は、残念ながらこちらの世界にお連れすることはできませんので、私が柊さんの体を参考に新しく魂の入る器……つまりは肉体を造ったのです。」


「な、なるほど。」


 理解しがたい説明ながらも、俺はひとまず頷いて反応した。すると、ミカミさんが俺のことをじ~っと眺めながら、ぽつりと呟く。


「ところでイリスちゃん、この体……本当に柊君を参考に作ったかい?随分凛々しくなっているように見えるけど。」


「せっかくなら、かっこいい体に魂を入れてあげたいじゃないですか。だからちょ~っとだけ私のアレンジというやつを加えさせてもらいました。」


「魂と肉体の繋がりに時間がかかったのってそれが理由でしょ。」


「ふふふ……さぁ、それはどうでしょうか?」


 クスリと笑ったイリスさんに一つ大きくため息を吐きながら、ミカミさんは俺に改めて言った。


「柊君、イリスちゃんが管理してる世界は、キミが今まで暮らしていた世界とは違って、常に危険が身の回りにあると思ってくれていい。前にイリスちゃんと一緒に観光したんだけど、は襲ってくるわ、山賊に目を付けられるわ~で大変だったんだから。」


「そ、そんな物騒な世界なんですか?結構ファンタジーっぽさがあったんですけど。」


「私の不手際で、キミはこれからそういう世界で生きていくんだ。だからこれは私からの餞別。」


 そう言って俺に向かってミカミさんが手を翳すと、俺の目の前に不思議な画面と共に文字が表示された。


「天照大御神からを受け取りました?」


「柊さんがこれから生きる世界では、自分の体に異変が起こるとそんな風に通知してくれるんです。今回はミカミちゃんから贈り物をもらったから通知が来たというわけですね。」


「あの、このギフトっていうのはいったい?」


「キミがイリスちゃんの世界で生きるのに必ず役立つものだよ。向こうの世界に行ったら中身がわかる仕掛けにしてある。」


「わかり…ました。」


 そして何かも分からないギフトなるものを受け取ると、ミカミさんが俺の手を引いて体を起こしてくれた。その流れで俺の体をぎゅっとミカミさんは抱きしめると、涙を流しながら言った。


「キミが向こうの世界に行っても、私はいつでも見守ってる。するよ。」


「ありがとうございますミカミさん。」


 なぜか撫でたくなってしまったミカミさんの頭を、衝動的にぽんぽんと撫でると、彼女は涙をぬぐいながらにこりと笑った。


「私の頭を撫でたのはキミを含めて2人だけだぞ?」


「嫌でしたか?」


「いや、懐かしい感じがして……悪くなかった。」


 そう言って嬉しそうにミカミさんは笑った。その表情を見下ろしていると、ふと俺の体がほろほろと分解されるように光の粒になっていっていることに気が付いた。


「これは……。」


「魂が肉体を得たので、あるべき場所へと向かおうとしているのです。」


「イリスさんの世界にってことですか?」


「その通りです。」


 するとイリスさんは俺の胸にポンと手を置いた。それと同時にまたさっきのような通知画面が表示される。


「女神イリスからのを受け取りました……。」


「柊さんはミカミちゃんから預けられた、大事な大事な魂ですから。私からもプレゼントです。」


「あ、ありがとうございます。」


 そんな会話をしているうちにも、俺の体のほとんどが光の粒子となってしまっていた。


「柊君、向こうの世界では幸せに生きるんだぞ?これは天照大御神である私からのお願いだ。」


「私もそう願っていますよ。」


 その2人の言葉にありがとう……と伝えたかったが、俺の体はそれを伝える前にすべて光の粒子となってしまった。




 柊君の体が全て光の粒子となってあるべき場所へと還った後、イリスちゃんがこっちを向いてぺこりと謝ってきた。


「ごめんなさいミカミちゃん。すべての罪をミカミちゃんが被ってしまう形になって……本当は私に責任があるのに。」


「はっはっは、いいんだよイリスちゃん。柊君を守れなかったのは私の責任だからね。」


「でも元は私がを……。」


「良いんだイリスちゃん。キミは私の無理なお願いを聞き届けてくれた、今回はそれで言いっこなしにしよう。」


「わかりました。」


「それよりもイリスちゃん、柊君のことは頼んだよ?彼にはキミの世界で子孫を残してもらうって重大な役目があるんだから。」


「もちろんです。」


「うん、じゃあ私は大事な柊君を殺してくれた、忌々しいあの異物を始末して来るよ。それじゃまたね、イリスちゃん。」


 私はイリスちゃんにひらひらと手を振って、下界に戻った。すると黒井君が私の帰りを待っていてくれた。


「お疲れさまでした。それで……柊君はどうなりましたか?」


「あぁ、無事柊君は向こうの世界に転生したよ。向こうの世界ならきっと幸せに生きてくれるさ。さて、それより黒井君、あのの動向は掴めてるのかい?」


「もちろんです。」


「よし、じゃあ早速向かおう。私の大事な大事な柊君を殺してくれた罪は重いってことを教えてやるんだ。」


 柊君、キミの仇はこっちで討つよ。だからキミはそっちで…………。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る