採寸という宿命
グレイスの採寸や馬車の構造などの話し合いを終えた後、俺達はその足でお菓子を買いに行った。そのついでに、ミクモにミニサイズのグレイス用のモコモコの冬服を作ってもらおうと思い立ったわけだ。
「うはぁ……自分の店ながら混んでるなぁ。」
「社長特権とかで列の一番最初に〜とか、できないの?」
「そういう事をしちゃったら、せっかく並んでいたお客さんの時間が無駄になるだろ?だから、ここはルールに則って並ぶのさ。」
俺達も今回は客として来た。ならば客側のルールに則るのが筋というものだ。
30分も並べば、俺たちの順番が回ってきた。すると、社員のエルフは俺たちの顔を見てギョッとしていた。
「はぇっ!?しゃ、社長!?」
「お疲れ様、俺達もお菓子を買いに来たんだ。それと店舗営業がどんな感じなのか拝見にな。」
「えと、それじゃあご注文は……。」
「どら焼き4つと……あ、この新作のシュークリームも4つもらおうかな。」
「はいっ、少々お待ちくださいっ!!」
俺の知らぬ間についこの前アンネが新商品に……と作ったシュークリームがラインナップに並んでいたので、ついついどら焼きだけに収めるつもりだったが、それも買ってしまった。
「お待たせしました。」
「これお代な。」
「はぇっ!?社長、私たちだけの特権は使わないんですか?」
「俺はいいよ。今日はラン達もいるしな。」
「は、はぁ……わかりました。では代金丁度受け取りました!!ご利用ありがとうございます!!」
「うん、ありがとう。それと、これをここにいるみんなに配っておいてくれないかな?一人一人名前が書いてあるから。」
俺はこの店舗で働いている、一人一人の名前が書かれた封筒を手渡した。
「これはなんでしょうか?」
「みんな頑張って働いてくれてるから、
「わかりました、とにかくみんなに渡せば良いんですね?」
「そういう事、じゃ営業頑張ってな。」
後ろにまだ行列が残っているので、俺はヒラヒラと手を振ってから、隣にあるミクモの豆腐屋へとやって来た。
「うぬ?お主か、残念じゃが今日の分の豆腐は全て売れてしまったぞ。」
どうやらミクモの豆腐の売れ行きもかなり良いらしく、今日の分はもう完売してしまったらしい。
「繁盛してるようで何よりだよ。豆腐はあれば買いたかったけど、今回はちょっと一つお願いがあってきたんだ。」
「ふむ、なんじゃ?」
「このグレイスの冬服を作ってほしいんだ。大きさは今の状態に合わせてくれて良い。」
「そういうことならお任せじゃ、どれまずは採寸から始めるかの。」
狐の刺繍の入った白エプロン姿から、ドロンと一瞬でまた違う服へと着替えたミクモは、採寸に必要なものをどこからか取り出して装備した。
「ま、また採寸が必要っす?」
プルプルと震えながらグレイスは涙目になって、俺に助けを求める視線を送ってくるが、残念ながらこれは逃れられない宿命だ。
「もちろん必要じゃ。では早速測っていくのじゃ〜。」
そして、ミニサイズのグレイスの採寸が始まり、さっき傷ついたばかりのグレイスの心が、更に抉られていってしまったのだった。
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