ヒイラギの耳かきの原点
師匠がポケットから取り出したのは、さっき俺がシアに使っていた物とはまた違う形状の耳かき棒だった。
その形には、めちゃくちゃ見覚えがあった……。師匠がまだ日本で生きていた頃、散々俺の耳の中を掻き回した、あの耳かき棒とまるっきり同じなのだ。
「懐かしいだろ?私自身、どうしてかは分からんがこちらの世界に呼び出された時に、これだけ持っていたんだ。」
そう嬉々としながら師匠は、指でクルクルと耳かき棒を回した。
「で、もう一度聞いておくが……私のやりたいことは理解してるんだろ?」
「……はい。」
やりたいことリストの中に名前が無かったのは、リリンとライラのみ。その他の面々の名前は全てあって、もちろん師匠の名前もあった。
そして師匠がやりたいと、あのリストに書いていたのは、耳かきだったのだ。
「ならわかるな?」
ニヤッと笑みを浮かべると、師匠はポンポンと自分の太ももを叩く。
「あの、師匠……なにも今じゃなくても。」
「ダメだ。」
「う、わかりました……わかりましたよ。」
こうなったら師匠は一切引かないのは、俺が良くわかっている。結局根負けして、俺は久しぶりに師匠の膝枕へと頭を預けた。
「ふふふ、太ももで感じるお前の頭の重さ……久しぶりの感覚だ。」
さすさすと俺の頭を撫でながら、嬉しそうに師匠は笑った。
「こちらに来てから、ドーナやランという何とも分厚い障壁があって、なかなかお前に触れられる機会が無かったからな。今はじっくりと堪能させてもらうぞ。」
すると、鼻息がどんどん耳の近くに近付いてくるのが分かる……。
「くんくん……ん?意外と綺麗そうだな。」
「意外とってなんですか、ちゃんと毎日綺麗にしてますよ。」
「なんだ、少しぐらい耳垢があったほうが、耳かきのしがいがあるというものだろう。」
少しムスッとしながらも、師匠はいよいよ俺の耳に耳かき棒を近付けてくる。
「あまりビクビクと体を震わせるなよ?粘膜が傷付くぞ。」
「だったらお手柔らかに頼みますよ。」
「それは……無理な相談だな。」
そして耳の中に入ってきた棒の先端が、早速気持ちの良いツボに当たる。
「う、ぉぉ……。」
「ふふ、久しぶりだが覚えているぞ。お前の耳の構造は。まずはゆっくりと手前のツボからねちっこく刺激していこう。」
カリカリと軽く引っかかれたり、グイグイと圧迫されたり……いろんな刺激を加えられると、自然と身体の力がドロっと溶けていく。
(やっぱり、ヤバい……こんなの寝るなって方が無理……だ。)
「お前の考えていることは、今は手に取るように分かるぞ。ほら、心地良さに身を任せ……寝てしまうといい。」
そう耳元で囁かれたのがトドメとなり、俺の意識は心地良さの中に沈んでしまった。
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