触手の可能性


 師匠に耳かきを施されてからどれぐらいの時間が経っただろう……ふと目を開けると、俺はまだ師匠の膝枕の上で寝かせてもらっていた。


「お?やっと目が覚めたか寝坊助め。」


「……どのぐらい寝てました?」


「ま、30分ぐらいといったところか。その間みっちりと耳の中を穿り回してやったぞ。おかげで私の欲が発散できた。見ろ、この肌の潤いを。」


 たしかに師匠の肌に少し艶が出ているようにも見える。そして見上げてみたとき、俺は師匠の体から生えていたあるものに目がいった。


「師匠、その触手は……。」


「あ、しまった。隠すのをすっかり忘れていたな。」


 指摘されると、師匠はその触手をじゅるりと音を立てて収納してしまう。


「いやな、日本にいたころASMRというものにハマっていたのを思い出してな。その時聞いていた耳かきの音声を少々参考に……というものを試してみたんだが、どうやらあまり耳かきには向いていなかったらしい。」


 ふと耳に違和感を感じて触ってみると、ねちゃっと粘性のある液体が手に付着した。


「綺麗になることは綺麗になるんだが……粘液で耳の中がぐちゃぐちゃになってしまったんだ。」


「そ、そういう事でしたか……。」


 少々申し訳なさそうにしている師匠の前で、耳の中に入り込んでいる粘液を綿棒で掻きだしていく。


「だが、ヒイラギの耳の中を這いまわってみてわかったこともあった。この触手は自分の指先よりも器用で……そして普通の肌よりも敏感な感覚を備えていることを発見した。もしかすると少し練習すれば私の新たな腕として自由自在に使えるやもしれん。」


「2本腕があるだけでも十分強いのに、腕がいっぱい生えたら~ってあんまり想像したくないですね。」


「ステータスとやらに差があっても、ひっくり返せるかもな。これは後々ドーナ達と試しておこう。」


「あ、そういえばドーナ達との稽古は最近どうなんです?」


「至極順調……2人とも天才肌だから、教えたことはすぐに取り込んで自分の物にしてしまう。どんどん教えられることが少なくなってきているぐらいだぞ。柊も鍛錬を怠っているとあっという間に追い越されてしまうぞ?」


「あはは、肝に銘じておきます。」


 そんなやり取りをしていると、お菓子を買いに行っていたというドーナ達が帰ってきた。


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