カリンの昔語り


 エルフたちが一丸になって行う、来年の豊作を祈願する踊りが幕を閉じると、今度は盛大な酒宴が始まり、みんな酒に溺れてしまっていた。


 かくいう俺も雰囲気に溶け込むように酒を嗜んでいると、こちらに先ほどの際どい衣装から着替えたカリンが歩いてきた。


「楽しんでもらえたか社長。」


「いい経験になりました。……それにしてもあの衣装はちょっと際どくないですか?特にマドゥみたいな子供にはなかなか刺激が強いような気がしますよ。」


「それは此方も承知の上だ。」


 俺の隣にどっかりとカリンは座ると、一つ大きくため息を吐いた。


「少し昔話をしてやる故、一献此方にも酒をくれぬか?」


「もちろん。」


 カリンのグラスに酒を注ぎ、お互いにグラスを軽く合わせてからそれを飲む。


「くはっ、体を動かした後に飲む酒はこの上ない極上のものだな。」


 酒の美味さに震えながら、満足げに大きく息を吐きだすと、カリンは昔のこの祭りのことについて話してくれた。


「実はな社長、この祭りは今でこそ収穫祭と銘打って行っているが、昔は名前も祈願するものも全く違う祭りだったのだ。」


「ってことは、何かを境目に変わったってことですかね?」


「あぁ、此方が着ていたあの衣装はその時の名残りだ。」


「ちなみに昔はどんな祭りだったんです?」


「まぁまぁ、焦るな社長。ゆっくりと聞かせてやる故な。」


 そう言いながら、カリンはこちらに空になったグラスを差し出してきた。それにまた、なみなみと酒を注ぐと、彼女は満足げに語り始める。


「この祭りが変化したのは、この国の最後の男のエルフが亡くなった時……つまり200年ほど前のことだ。」


「え、そんな昔に最後の男のエルフが亡くなってしまってたんですか?」


「そうだぞ?フィースタから聞いていなかったか?」


「ずいぶん前に……っては聞いてましたけど、年数の基準が俺の感覚とはだいぶ違ってました。」


「くく、まぁ此方らは長寿のエルフだ。人間とは時間の基準がまるっきり違うのも仕方あるまいな。っとまぁ、その時を境にこの祭りはから収穫祭へと変わってしまったわけだな。」


「繁栄……ってことは、もともとは子孫繁栄とか子宝成就とか、そういった祭りだったと。」


「その通り。本来ならばあの衣装は、婚姻を結んだ女子が男のエルフへと向けて踊るための衣装だった……というわけだな。」


 どうしてあんなに際どい衣装をこの収穫祭で着て踊ったのか、その理由がやっと判明した。


 なぜ新しい衣装を作らなかったのかは、野暮な質問だからぐっと読み込んでおくとしよう……。


 

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