ライラが作っていたもの


 ライラのことを待っていると、背後でわずかな足音が聞こえた。


「ライラか?」


「あぁそうだ。しっかりと完成させてきたぞ。どこにも覗く隙間なんかは無い完璧なものが出来上がったと自負している。一瞬だけ見せてやろう。」


 すると長いこと俺の視界を封じていた目隠しがライラの手によって解かれた。やっと開くことができた目で最初に見ることができたのは、竹で作られた大きな仕切り。そして、汗だくになって肩で息をしているライラの姿だった。


「な、なるほどな。これで女性陣と俺とを仕切るってわけか。いい考えだと思うぞ?でもこれを温泉に入れてもいいって許可はカリンに取ってるのか?」


「無論だ。しっかりと許可は取ってある。そういうわけだから、これを設営するまでもうしばらく目隠しをされていろ。」


 また俺の目を覆い隠すように目隠しをかけられると、今度はジャポンとライラ作の竹の仕切りが温泉の中に沈められた音が聞こえてきた。その直後、俺の手がグイっと引き寄せられる。


「待たせたな。これで完成だ。」


 ライラのその声と同時に、また目隠しがとられた。すると、広い子の温泉の一角に竹で仕切られた実質男湯が完成していた。


「おっ、いざ温泉に入れてみると意外に広いな。」


「本当ならもっと狭くして手間を省く予定だったが、妹様に作るならお前がゆっくりできるように広く作れと釘を刺されてしまった。」


「そういう事なら後でフレイには感謝しておかないとな。」


「地面に頭を擦り付けるほど感謝しろ人間。もちろん私にもな。」


「あぁ、ありがとなライラ。」


「っ、わ、私も湯につからせてもらう。念のため釘を刺しておくが、覗きなんて愚かな行為はするなよ。」


「もちろんだ。」


 そして一仕事終えたライラも服を脱ぎに行ってしまった。


「さぁてと、これで安心して温泉に入れるな。」


 服を脱いで近くに折りたたんで置き、温泉を体にザバッと勢いよくかけて汗や汚れを落としてから湯にどっぷりと肩まで浸かった。


「あぁ~……こいつは最高だな。湯加減もすごくちょうどいい……。」


 ほっこりと温泉に浸かって、体が湯に溶けだしていくような心地よい感覚に包まれていると、顔を真っ赤にしながらこちらにマドゥが走ってきた。


「マドゥ?どうした?」


「ぼ、僕あっちは無理だよ。すごく恥ずかしいんだ。」


「あぁ~、そりゃあそうだよな。向こうに男はマドゥしかいないもんな。」


「うん……。お母さんは気にしなくていいって言ってるけど、やっぱり無理だよぉ。」


「なら無理せずこっちに入ってると良いさ。」


「ヒイラギさん、ありがとう。」


 こちらに逃げ込んできたマドゥの日頃の悩みなんかを聞きながら、俺はこの温泉を満喫するのだった。

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