ダンジョンの異変の元凶


 ケルベロスの背中から、毒々しい配色のドレスを身にまとった女性がゆっくりと地面に降り立ち、こちらに歩いてくる。彼女が一歩踏み出す度に、足をついた場所からぶわっと紫色の煙が巻きあがる。


「……お前がバフォメットが言ってた、ダンジョンを弄くりまわしてるやつだな。」


「だいせいか~い。」


「このダンジョンの権限を奪って、魔物をあふれさせたのもお前だな?」


「それも正解。」


 そう言いながら不敵に笑うと、彼女に向かってマキナが一歩踏み出して少し怒気を含んだ声で言った。


「それなら今すぐ私に権限を返してください。さもないと……。」


「さもないとぉ?」


「ヒイラギがあなたをボコボコにします。」


「俺かい。」


「フフフッ、まぁ~それは怖いわねぇ~。」


 その女性はマキナを嘲るようにニヤニヤと笑う。


「っ、バカにして……。」


「自分の問題も自分で解決できないようなあなたには興味は無いのよ。わかったら大人の話の邪魔をしないでもらえるかしら。」


 そうマキナに言い放ってから、彼女はこちらに改めて視線を向けてきた。


「あなたが普通にここにいるってことは、ナルダはしくじったってわけねぇ。あなたなかなかやるじゃな~い。」


「ナルダのことまで知ってるのか。なら死の女神の手先ってことで間違いないな。」


「そうよ~、私はイース様の配下。つまるところあなたの敵ねぇ。」


「こうやってダンジョンをぐちゃぐちゃにしたのも死の女神の指示なのか?」


「さぁ、どうかしらねぇ?気になるなら無理矢理私から情報を聞き出してみる?」


「それも悪くないな。」


 龍桜を使いながら構えをとったが、彼女はまだ不敵な笑みを崩さない。


「やる気に満ち溢れてるところ申し訳ないけど……私はここでサヨナラさせてもらうわ。もうこれ以上イース様の戦力を削るわけにもいかないしね。」


 そしてマキナが触っていたような画面を自分の前に表示すると、彼女はそれに手で触れた。すると、彼女の体が粒子となっていく。


「あなた達の相手はあの子。もし生き残れたなら、また会いましょ~。」


 そう言い残して彼女は消えてしまった。


「ヒイラギ、あの女は権限を全てケルベロスに渡してダンジョンから出ていきました。」


「ま、持ち逃げされなかっただけマシだな。……問題は何かコイツの様子がおかしいってことぐらいか。」


 ゆっくりと体を起こしたケルベロスは、瞳に色がなく、理性の欠片も残っていないように見える。それにあの女性が放っていた紫色の煙を身体中に纏っている。


「わ、私が設定したケルベロスはあんな毒々しい煙なんて出しませんよ!?」


「わかってるよ。大方アイツが何かやったんだろ。マキナも襲われるかもしれないから下がっててくれ。」


 走って距離をとっていくマキナを庇いながら、俺は起き上がったケルベロスと向き合った。



 

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