物件購入


 いよいよ厨房の方へと足を踏み入れてみると、さっき見た物件よりも器具は古いものの、動線もしっかりと考えられていて、かなり広々としていた。


「今仕込みに使ってるあの屋敷の厨房よりも広いな。」


 ここなら器具とかをきちんと揃えてあげれば、みんなのびのびと仕事ができそうだが……。残る問題はユリの小動物と虫の痕跡チェック次第か。


 俺もさっきの物件で、良く目を凝らして見ていたつもりだったのだが、あんなに小さな痕跡までは見つけられなかった。


 ユリに痕跡探しをお願いして正解だったな。


 そんな事を思っている最中にも、ユリは丁寧に一箇所ずつ時間をかけて確認していき、納得したのか一つ大きく頷くと、こちらに戻ってきた。


「社長、ここは大丈夫だ。」


「そっか、確認ご苦労さま。じゃ、ここにするか。」


「お決まりですか?」


「あぁ、この物件を丸ごと買うよ。」


「ま、丸ごとでございますか?賃貸ではなく?」


「どうせ長く使うことになるし、丸ごと買うよ。」


「か、かしこまり……ました。では請求書を作りますので、少々お待ちください。」


 この場でメーネルは請求書を急いで書き上げていく。それを待っていると、ミクモが質問を投げかけてきた。


「お主や、妾は金を払わんでも良いのか?」


「ミクモは、後で少し家賃を払ってくれるだけでいいよ。……それとも家賃を無しにする代わりに、この建物の購入金額を5割ずつ出し合うか?」


 こちらがそう問いかけると、ミクモは全力で首を横にブンブンと振った。


「や、家賃が良いのじゃ!!」


「ん、その辺は後々話し合って決めよう。」


 折り合いがついたところで、メーネルが請求書を完成させてこちらに持ってきた。


「お待たせ致しました。お気持ち程度に端数は切って、きりの良い額に調整しました。」


「どれどれ……。」


 請求書を受け取って金額を確認していると、それを後ろから覗いていたユリとミクモが、揃って目を大きく見開いた。


「なっ……し、白金貨20枚!?」


「さっきの提案に、間違っても首を縦に振らなくて良かったのじゃ。」


「この立地と建物の大きさなら、これでもだいぶ安いほうだと思うけど……。」


 そう呟きながら、俺はマジックバッグに手を入れて、白金貨を20枚取り出した。


「ほい、それじゃ確認してくれ。」


「お預かりいたします。」


 そしてメーネルに白金貨20枚を確認してもらい、晴れてこの建物が手に入ったのだった。


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