ユリの見つけた痕跡
「社長、こっちだ。」
「何か見つけたか?」
「これを見てくれ。」
ユリが指差したのは、一見ただのゴミとも見間違えそうな黒いつぶつぶしたもの。
「これ、虫のフンだぞ。多分、生ゴミとか食べる奴らだ。」
「よく見つけたぞユリ、お手柄だ。」
「後、ここの壁に齧歯類の齧った痕跡がある。しかもまだ獣臭がするな。」
クンクンと齧った痕跡をユリが嗅ぎながら言った。
「ってことはまだ新しいってことか?」
「あぁ、間違い無い。多分これを退かしたら……あ。」
氷の魔石が埋め込まれた冷蔵庫のようなものをユリが持ち上げると、その下にはネズミのような生き物が家族を作っていた。
「やっぱりいた。」
「あちゃ〜……これはダメだな。」
「まだ作られてから新しいというのに、こんな獣や虫が住み着いているのか。」
「多分前にこの建物で飲食店を営んでいた時に住み着いてしまったんだろうな。」
「こんな獣どもが巣食っている店の飯なんぞ食いたくないのじゃ。」
「ご尤も。今から駆除して消毒するのも大変だし、ここは無しだな。」
内見を終えて、外に出るとそこではメーネルがこちらを待っていた。
「いかがでしたか?」
「ここはダメだ。ネズミと虫が住みついてる。」
「まさか……まだ築5年でございますよ?」
「妾がこの目で確認した。間違いないのじゃ。」
「うむむ……ここの管理をしている者には、後で通告を出しておきます。」
サラサラとメーネルは、この物件の間取りなどが書いてある紙にメモを取っていく。
「では次に参りましょうか。少し歩きます。」
気を取り直して、次の物件を目指して大通りを突き進んでいく。
すると、いつも大通りを通るときに必ず目に留まる、中国の温泉街を彷彿とさせる大きな赤い建物の前でメーネルが足を止めた。
「こちらです。」
「ここだったのか。いつもなんの店なんだろうって疑問に思ってたんだよな。」
「ここが営業していたのは、妾がまだ若き頃じゃ。大層有名じゃったが……いつの間にか、店のみが取り残されておったな。」
「はい。ミクモ様の言う通り、この建物は約100年ほど前から国へと売られ、無人となっておりました。」
「まさか国に売られておったとはな。それは知らんかったのじゃ。」
「国で管理していましたので、建物の劣化等はありません。どうぞご確認ください。」
メーネルが鍵を開けてくれたので、中に入ると……さっきの物件とは広さがまるで違った。
「おぉ、ホールもめちゃくちゃ広いな。これならこれまで通り飲食スペースを確保できそうだ。」
中の装飾は、意外にもシンプルで飾り付け次第でどんな風にでもアレンジできそうだった。メーネルが言っていた通り、見てくれの経年劣化なども無さそうだし……後はこれで虫とか小動物がいなかったら最高なんだがな。
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