母エルフ


 翌朝、少し早めに食材を運んできてくれたリコと共に今日買ってもらう食材の整理を進めていると、ユリを筆頭に続々と立候補してくれたエルフの社員たちが集まってきた。


「みんなおはよう。」


「「「おはようございま~す!!」」」


「ん、みんな元気そうで何よりだ。じゃ、これから獣人族の国に行くんだけど、その前に獣人族の言葉を話せる人はどのぐらいいる?」


 すると俺の予想に反して全員が手を挙げた。


「おっ、みんな話せるのか。それなら何の問題もないな。」


 みんな話せるなら子供たちともすぐに打ち解けてくれるだろう。あともう一つある事項を確認しておこう。


「もう一つ確認したいことがあるんだけど、この中に育児経験がある人は?」


 すると五人の中で唯一一人だけ手を挙げた。


「私だけ……ですね。」


 彼女は自分の娘と一緒に俺の会社に入社した、ボタンって名前のお母さんエルフだ。ちょうど今回の立候補者の中に、娘さんのモミジもいる。娘さんといっても、ちゃんと成人してるエルフらしいから、俺よりもはるかに年上なんだよな。


「いや、ボタンだけでもありがたいよ。いないよりも遥かに良い。」


「しゃちょ~う、お母さんめっちゃ怖いけど大丈夫~?」


 にやにやと自分の母親のボタンの横っ腹をつつきながら、モミジがそう言った。すると彼女の頭に拳骨が落ちる。


「いた~いっ!!」


「自分の娘に厳しくするのは当然でしょう。」


「ふふ、ボタンの言うとおりだな。っと、それじゃあボタンはみんなに子供に対する接し方のお手本を見せてあげてほしい。これからたくさんの獣人族の子供と会うことになるからな。」


「承りました。」


「よし、確認したいことは確認し終わったから、そろそろ向かおう。」


 俺は大人数で移動する用の転送の結晶に魔力を込めて、獣人族の国へと移動した。そして、みんなを連れて王宮へと向かう。するとそこではシンと一緒に、見覚えのある羊の獣人がこちらを待っていた。


「待たせちゃったみたいだな。」


「いや、我らも今しがた準備を終えたところだ。ではメーネル会計を頼む。」


「承知しました我が王。ではヒイラギ殿請求書を頂けませんか?」


「はいよ。」


 彼に請求書を手渡すと、すぐにこちらにお金の入った袋が帰ってきた。


「請求書に記載されていた金額ぴったり封入いたしました。ご確認ください。」


「わかった。」


 大丈夫だとは思うが、念のため確認してみるとしっかりと請求書通りの金額が入っていた。


「ん、確かに。」


「では確認も済んだところで、護衛の兵士たちをつけさせます。」


「ありがとう。」


「あとで我も様子を見に行くからなヒイラギ。」


「あぁ、待ってるよ。」


 護衛についてくれた兵士たちに囲まれながら、俺たちは孤児院へと向かうのだった。

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