院長の苦難


 少しの沈黙の後に、院長は俺の質問に対する答えを返してきた。


「最後にちゃんとしたご飯を食べたのは……もういつか忘れてしまいました。」


「そんなに前って事だな。」


「はい。」


 俺は更に続けて、いくつか質問を投げかけていく。


「一日に子供達を三食満足に食べさせるために必要な金額はいくらぐらいだ?」


「普段何もなければ、だいたい金貨五枚位でしょうか。」


「何もなければっていうのは、どういう意味だ?」


「子供達の誕生祝いをする時には、少しだけ豪華な食事を用意しているんです。」


「なるほどな。」


 誕生祝いで少し出費が嵩むってわけか。それでもだいたい多く見積もっても金貨一、二枚ぐらい増えるぐらいか。


 その他にも諸経費とかを諸々と含めると……。


「だいたい全部ひっくるめて、一日金貨十枚位は欲しいって感じだな。」


 俺はサラサラとそれをメモしていく。


「あ、あの……勇者様はいったい何をするつもりなのでしょう?」


「ん、ここの子供達はエルフのお菓子屋の常連さんだからな。少し助けになりたいってだけさ。」


「た、確かに子供達のお菓子を買いに何日かに一回、あのお店を利用させて頂いてますけれど、あのお店と勇者様と何かご関係が?」


「あぁ、実はあのお店の社長っていうのが俺なんだ。」


「えぇ!?」


 院長が大層驚いている最中に、俺は携帯していた連絡用の魔道具で、とある人物へと連絡を取った。


「はいアンネです。」


「あぁ、アンネお疲れ様。ヒイラギだ。」


「あ!!ヒイラギ社長お疲れ様です!!どうしました?」


「近くにリコはいないか?」


「リコさんですね、ちょっと待ってください。」


 するとすぐにリコの声が聞こえてきた。


「はいは〜い、リコだよ〜。」


「リコ、今待ってもらってる入社希望のエルフってどのぐらいいたっけ?」


「んっとね〜…………全部で十人かな。」


「わかった。全員採用にしてくれ。」


「りょうか〜い。何か人手が必要になったの?」


「あぁ、獣人族の国で事業を拡大しようと思ってさ。」


「なぁるほどねぇ〜、じゃあ彼女達には声をかけとくね。夕方、明日の準備するときに集まってもらえればいい?」


「うん、それで大丈夫だ。それじゃあ頼む。」


「は〜い。」


 そして連絡用の魔道具の通話を切る。


「院長、子供達が社会経験を積みながら、お金が稼げるいい仕事があるんですけど……興味ありませんか?」


「……本当にそんなお仕事があるのなら、もちろん興味はあります。」


 シンが子供達にお菓子を配っている間に、俺は院長へある仕事の説明を行ったのだった。


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