下戸?上戸?


 クラーケンで作った料理を食べている最中、我慢できなくなった俺は、冷やしておいた芋酒を持ってきた。


「ん?それは……。」


 芋酒を氷の入ったグラスに注いでいると、師匠が目を細めた。


「これは芋酒っていう獣人族の国で作ってるお酒です。」


「やっぱりそうか。」


「やっぱり?……その口ぶり、師匠もこれを知ってるんですね?」


「あぁ、どっかの誰かさんに飲まされたからな。」


 そう言って師匠は、イカリングと格闘を繰り広げていたレイの方へと視線を向ける。


「師匠は下戸じゃありませんでした?」


「その通り……。」


 すると、師匠は芋酒が入ったグラスを手に取り、それを一気に飲み干してしまった。


「くはっ、冷たくて美味いなぁ……。とまぁ、この世界に呼び出されてから、体の構造も少々変わったらしくてな。下戸ではなくなってしまったようだ。」


「まぁ、お酒を楽しめるようになったのは良いことだと思いますけど、調子に乗って飲みすぎると次の日痛い目に遭いますよ。」


「ははは!!それは問題ない。レイと酒を飲んで瓶を一つ空にしても、次の日は何事もなかったのだからな。」


「まぁ、そこまで言うなら……。一緒に飲みますか。」


 そして師匠の分のグラスも持ってきて、芋酒を注いでいると、それを見ていたラン達もグラスを持ってきた。


「シズハがお酒を飲むなら、ワタシも一緒に飲むわ。」


「アタイも飲む。」


「ワシも飲むのじゃ!!」


「はいはい、注げってことね。」


 一人一人にお酒を注いでいると、そんな様子を羨ましそうにシア達が眺めていた。


「お姉さん達良いな〜。シアも早く大人になりたい!!」


「あれ…おとなじゃないと…のめない?」


「そうだよ。大人にならないと飲んじゃだめなんだって。」


「…………。」


 メリッサは少し考え込むような素振りを見せると、何かを思いついたらしい。


「じゃあ…おとなになる!」


「へ?」


 するとメリッサは、おもむろに小さめのハチを二匹召喚する。その二匹のハチは、メリッサの目の前でクルンと丸くなった。


「これを…こうして…こうすれば。」


 そして、その丸くなったハチをメリッサは服の中に入れて、大きく胸を張った。


「これで…おとな!」


 目を輝かせながらそう言い放ったメリッサ。彼女の中では、どうやら胸が大きければ大人という認識らしい。


「メリッサ、胸を大きくしても大人にはなれないんだぞ?」


「はぅ…これおとな…じゃない。」


 しゅんと残念そうに肩を落とすと、メリッサの服の中から二匹のハチが落ちてきた。そのハチたちにありがとうと言いながら、メリッサは魔法陣の中へと戻していた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る