現れたクラーケン


 海から触手が飛び出してきたと思えば、それはすぐに漁船へと巻きついていく。


「グレイス、しっかり掴まってろよ。」


 上空から一気に降下し、その漁船の上に降り立つと、船員がなんとか触手を退けようとして、銛のようなもので刺そうとしていた。


「おい、船長に伝えてくれ。俺がこの魔物を引き受けるから、早く港に帰れと。」


「あ、あんたはもしかして……。」


「俺のことは良いから、早くしろ。」


 俺は右手にサンダーブレスを纏わせて、その触手を掴んだ。すると、触手が激しくビチビチと暴れ始め、たまらず海の中へと戻っていった。


「ほら、今のうちだ。」


「っ、わ、わかった!!」


 声をかけた船員が、走って船長がいるところへと向かう。それを目で追っていると、船の側面の海面が一気に盛り上がり始めた。


「出てくるか。」


 大きく揺れる船の上から飛び立って、その様子を眺めていると、大波を巻き起こしながら、漁船よりも遥かに大きな巨大イカが海面に現れた。

 そいつは相当怒っているらしく、俺の方にギョロッとした目を向けてくる。


 確か、こいつは言語理解を持っているらしい魔物だってミースが言ってたな。それならこういう手が使えるんじゃないかな。


「やっと姿を現したな。イカ野郎、焼きイカにしてやるからかかってこいよ。」


 そう挑発してやると、やはりこちらの言葉が理解できるようで、怒りをあらわにしながら墨を吐いてきた。


「よっと、それには当たってやれないな。」


 イカの墨は種類にもよるが、めちゃくちゃ濃度の濃いタイプの墨を持ってるイカもいる。このクラーケンの墨はどうかわからないが、汚れたくもないし避けておこう。


「それと、イカ墨を無駄に出すのはやめてくれないか?それも立派な食材なんだが……。」


 自分が食べ物に見られていることに、更に怒ったクラーケンは、巨大な触手で俺のことを捕まえようとしてくる。


 だが、巨大故に動きは遅く避けるのは容易だった。


「ほいっ、ほいっと。」


 ヒラヒラと難なく避けているのが更に癪に障ったらしい、今度は触手の先端から魔法を放とうとしてきた。


「おっ、今度は魔法か。」


 魔法陣から放たれたのは、水のレーザーのような魔法だった。それが全ての触手の先端から放たれているから、避けるのは難しそうだ。


「これはなかなか避けるのは難しいな。なら、一番簡単で安全な方法で行くか。」


 俺はクラーケンの眉間めがけて、一気に降下していく。すると、魔法が自分に当たることを恐れたのか、こちらに魔法は飛んでこなくなった。

 その代わり、俺を食おうとクラーケンが巨大なクチバシをガチガチと鳴らしている。


「食われるのは……。」


 そのクチバシを蹴って、俺は当初の狙い通り奴の眉間の前にたどり着く。


「お前の方だよっ!!」


 そして全力でクラーケンの眉間へ踵落としを叩き込んだ。すると、クラーケンは全身の色が一気に透明になって動かなくなった。


「クラーケンの活け締め……完了っと。」


 さ、後はこいつをマジックバッグにしまって、ミースのところに持っていこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る