静葉の大好物


 俺達がお昼を食べ終えた後で、師匠の元へキツネうどんを運んでいく。実のところ、師匠は超がつくほどキツネうどんが好きなのだ。


「師匠、お昼ご飯持ってきましたよ。」


「おっ!!………おぉ?柊、その手に持っているのはまさか……キツネうどんかっ!?」


「はい、今日は師匠の大好物を作ってきました。」


「この世界でもキツネうどんを食べられるという、この幸せを噛み締めながら、味わっていただこう。」


 そして師匠にキツネうどんを食べさせている最中、先程ドーナから聞いた寒期のことについて話すことにした。


「そういえば、この世界にも冬みたいに寒くなる期間があるみたいですよ。」


「む、そうなのか。寒くなるならコタツが欲しくなるなぁ。あそこに入ってみかんを食べる……アレが冬の醍醐味なんだ。」


「間違いないですね。」


「だが、その醍醐味を味わう前に死の女神との因縁を断ち切らねばならんな。早いところ自らの手で飯を食えるようになりたいし。」


 そんな事を話しながら、師匠は最後の最後までとっておいた、極厚の油揚げにかぶりつく。


「んん〜♪この分厚い油揚げ……私好みの甘辛い味付けだ。やはりキツネうどんの油揚げは、最後の最後の楽しみにとっておかねばなぁ。」


 そして幸せそうに師匠は油揚げを平らげ、キツネうどんを完食した。


「ふぅ、実に美味しかったぞ。ごちそうさまでした。」


「お粗末様でした。」


 食べ終えた食器を片付けていると、師匠があるものを要求してきた。


「ヒイラギ、神華樹の果実とやらを食わせてくれ。」


「えっ、今日の分はもう食べましたよね?」


「あぁ、だが……私自身早くこの拘束から解放されたくてな。気分の良い時に食べておきたいんだ。」


「わかりました……それじゃあ今用意します。」


 マジックバッグから神華樹の果実を取り出して、食べやすいサイズにカットする。それを師匠の口元へと近付けた。


「はい、どうぞ。」


「ありがとう。」


 以前のように嫌悪感を示すことなく、師匠は神華樹の果実を食べた。すると、師匠の体に繋がっていた最後の一本の太い鎖が具現化する。


「やはりこの鎖がなかなかしぶといな。」


 シャリシャリと神華樹の果実を味わいながら、師匠は自分の体に繋がれた太い鎖へと目を向けた。


「この果実をいくら食べても全く揺らぐ気配がない。」


 その鎖を見て、俺は一つあることを試したくなった。


「師匠、一つ試したいことがあるんですけど……良いですか?」


「試したいこと?」


 俺は、師匠に今から試したいことについて少し説明すると、師匠はゆっくりと頷いてくれた。

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