フードの女の正体


 マンドラ茶の苦さが消えたところで、やっと彼女はお菓子を食べながら本題を話し始めた。


「ん、さて……それじゃあ本題に入るぞ。」


 すると、彼女はなにやら紙にサラサラと何か文字を書き始めた。


「ん。」


 そして書き終えた紙をこちらに見せてくると、そこには日本語が書いてあった。


『死の女神との誓約で、口で彼女達の情報を話すことは禁止されている。だから、文章で伝えさせてもらう。』


 なるほど、そういう事も禁止にできるのか。


『死の女神の計画は次の段階へと入った。奴は、私を依り代にしてこの世界で肉体を得るつもりだ。』


「エンリコが話していたという依り代は、あんただったということか。それはわかったが……一つわからないことがある。死の女神はわざわざ肉体を得て何をするつもりなんだ?」


 そう質問すると、彼女はまた紙に日本語を書いて見せてきた。


『奴の狙いは、他の女神たちを消滅させ、この世界を一から作り直し、自分だけの世界を作ること。その為には負の感情を最大まで高めた、死の女神の力に適応できる肉体と精神が必要らしい。その両方を持っていたのが、たまたま私だったということだ。』


「ふむ。じゃあもう一つ質問。何故そんな重要なことを俺に教えたんだ?」


『そんなことは決まってる。この体は元より私だけのものだ。あんな給料もロクに払わない女神なんざに差し出してやるつもりはない。だが、私と彼女の間に無理やり交わされた盟約は厄介でな。私が心から望んでいなくても、言うことを聞かされてしまう。』


「なるほどな。」


 多分、嘘は言っていないと思う。それに、死の女神の計画ってやつもかなりヤバそうな内容だった。


「わかった。で、そこまで話してくれるってことは、俺に何をしてほしいんだ?」


『話が早くて助かる。要は、死の女神に無理やり突き動かされる私を邪魔してほしい。この世界で私を止められるのは、どこを探してもお前しかいないんだ。だから……頼む。』


 すると、彼女は俺の前で勢い良く頭を下げた。


「頼む……お願いだ。」


「…………。」


 とあることに息を呑みながらも俺が了承すると、彼女は表情を明るくしながら顔を上げた。


「感謝する。……しかし、何故急に敬語になった?敬意を払うのはこちらのはずなのだが。」


、もう隠さなくて良いんです。」


「なっ、ななな、何を言ってるのかな!?ひ、人違いだと思うぞ?」


「もう無理ですよ、フード取れちゃってますもん。」


 さっき頭を下げた勢いでフードが取れてしまい、正体不明だった顔が遂に露わになっていた。


 ずっと謎だったフードの女の正体、それは紛れもなく俺の武術の師匠……だったのだ。

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