伝えなければならない悲劇


 翌朝……朝食を食べ終わった後、誰かが屋敷の扉をコンコンとノックしている。


「はいはい、どちら様……ってマドゥ?どうしたんだ、こんな朝早くから。」


「お、おはようございます。えっと……し、シアちゃんとメリッサちゃんと遊ぶ約束してて。」


「なるほど、そうだったんだな。今呼んでくるよ。」


 そしてシアとメリッサの二人の名前を呼ぶと、すぐに飛んできた。


「あ!!マドゥくん、おはよ!!」


「おはよ。」


「お、おはようシアちゃん、メリッサちゃん。きょ、今日は何して遊ぶ?トランプする?」


「トランプもいいけど〜、今日はお外で遊びたい気分!!みんなで鬼ごっこしよ!!」


 するとシアは踵を返してリビングに向かうと、膨らんだお腹をポンポンと撫でていたグレイスを捕まえて、またすぐに戻ってきた。


「うきゅぅぅ……危うくさっき食べたご飯全部出るところだったっす。」


「グレイス!!一緒に鬼ごっこしよ?」


「鬼ごっこっすか?食後の運動にもってこいっすねぇ〜、いいっすよ!!」


「えへへぇ〜ありがと〜。」


 嬉しそうなシアに、グレイスはもみくちゃにされている。だが、グレイスもそんなシアの愛情表現を全身で受けて、まんざらでもなさそうだ。


「じゃあお兄さん!!行ってきます!!」


「いってきます!」


「あぁ、怪我にはくれぐれも気を付けて遊ぶんだぞ〜。」


 無邪気に走っていったシア達を見送っていると、ひょっこりと俺の横からカリンが姿を現した。


「マドゥも友達ができて楽しそうですね。」


「いやはや、最初はどうなる事かと冷や冷やしたものだが……なんとか馴染んでくれたようで、此方も安心だ。」


 今のところ幸せそうな話題だが……アレについて、カリンに伝えておかなければならない。


「幸せな雰囲気をぶち壊すようで心苦しいんですが……。」


「む?なんだ?」


「これをエートリヒから預かっていました。」


 俺はエートリヒから預かっていた、マドゥの母親の診断書を彼女に手渡した。


「これは……そうか、確かに受け取った。」


 カリンはその診断書に目を通すと、やるせなさそうな表情で、折りたたんでポケットへとしまった。


「…………この事実は、マドゥには伏せておいたほうがよさそうだ。知らせてやりたい気持ちも山々だが……。」


「そうですね。しばらくは、伏せておいたほうが良いかもしれません。」


「本当ならあの母親には改心してもらいたかった。そして、息子を愛する気持ちを思い出してほしかったのだが……残念だ。」


 空を見上げて、少し悲しそうにカリンはそう言ったのだった。

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