シンの作戦
「改めて、ご馳走さまでした……。」
注文したケーブを食べ終えて、手を合わせていると、さっきまでものすごい勢いで食べていた他のみんなも、満足そうな顔をしてお腹を撫でていた。
「シン、美味かっただろ?」
「うむ!!王宮でメイド達が作る飯にも引けを取っておらん。」
うんうんと満足そうにシンは頷く。
「そういえば、さっきヒイラギが……何やら消えるとか話していなかったか?」
「あ、そ、それは……。」
言葉に詰まった店主の代わりに、俺がシンに彼が本当は今日で店を閉めようとしていたことを、伝えることにした。
「実は、このお店……今日で閉店するつもりだったんだってさ。」
「なに!?何故だ、こんなに美味い飯が作れるなら客足も良いだろう?」
「そ、そうでもないんです。こ、この顔とお店が路地裏にあるせいでなかなかお客さんが来てくれなくて……。」
店主が自分の顔を指差すと、シンがずいっと彼の顔を覗き込むように歩み寄った。
「ふむ……我とそんなに変わらんではないか。」
「へ?」
「そうだ、良いことを思いついたぞ。少し我に付き合ってくれ。そのケーブという料理もいくつか持っていくぞ。」
彼にまた何個かケーブを作らせると、それを持ってシン達は、一緒に店を出ていった。
「何をするつもりなんだろ。」
「まぁ、それはシン坊についていけば分かる事じゃな。」
何をするのかを確かめるため、シン達の後を追ってみると、何やら近くの広場にシン達を中心に人だかりが出来ていた。
「今日は皆に勧めたい物がある。それがこの店主の作るケーブという黒乱牛を使った料理だ。」
シンは片手にケーブを持ちながら、なんと演説を始めてしまったのだ。
「シン坊のやる事は想像がついておったが、やはりこうなったか。」
「まぁ、でも効果は間違いなさそうだ。」
彼の演説を眺めていると、シンは少年や少女にケーブを配り、実際に食べてもらって美味しいという言葉を引き出していた。
そして、あの店主の顔が怖いという理由で、お店にお客さんが来ないということに関しては、実際に彼と集まった人達の目の前で話して、本当は腰の低い良い性格の獣人だということを知ってもらっている。
演説も終盤になると、シンは改めて願いを伝えた。
「我の友が言っていた。こんなに美味しい料理を作れるのに、誰にも知られず消えてしまうのは心苦しいと。我も同じ気持ちである!!もっとこの料理の存在を皆に知ってほしい!!だから、今の我の話を聞いて気になった者は是非とも一度食ってみてほしいのだ!!」
沸き上がった盛大な歓声に、シンと店主の二人はペコリと深くお辞儀をすると、集まった人々に手を振りながらこちらへ戻ってきた。
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