レイが思いついたこと


 その後、採取した黒い血液の成分分析の様子や、凶暴になってしまった魔物の健康管理等などを見学させてもらった後、俺とレイはジルに別れを告げてその施設を後にした。


「それにしても、実際に目の当たりにするとおぞましい物じゃったな。あの黒い血液というものは。」


「そうだな。あの血液が体の中に入っただけで、あんなふうになるんだから、今度遭遇したときは気を付けないと。」


 この間、シンと一緒にあの黒い血液の魔物を倒したときは、偶然お互いに外傷を受けることもなかったし、あの血液を飲んでしまうようなこともなかった。


 今思い返してみれば、あの時は運がよかったのかも。


「レイも、いくらお腹が減ったとしてもあんな魔物は食べちゃだめだぞ?」


「なっ、た、食べ物の食える、食えないの判断ができないほどワシは長生きしておらんぞ!?」


「とか言って、この前そのへんに生えてたキノコ食べてお腹壊してただろ。」


 実はつい一昨日のこと、レイが夜中に小腹が空いたらしく、屋敷の横に生えていた、いかにも毒がありそうなキノコを生で食べてしまったのだ。


 すぐに調べたら、強烈な腹痛を引き起こすだけのキノコだとわかったのだが……。レイがその日丸々一日トイレから出られなかったことは、言うまでもないだろう。


「う……そ、それは〜小腹が空いて仕方がなかったのじゃ〜。」


 吹けない口笛を吹きながら、レイは俺から目を逸らした。


「何回も言ってるけど、お腹が空いたら冷蔵庫の中のもの食べていいんだからな?あ、でも名前の書いてあるやつはダメだぞ。」


「うむむ……わかったのじゃ。」


 ちなみに、冷蔵庫の中に入っているものの中で名前が書いてあるものというのは、フレイか……はたまたリリンが夜食にとっておいているお菓子だ。


「さて、レイはこれからどうする?また人間の国に戻って、ドーナ達と家具を見てくるか?」


「いや、あちらはあの二人と自称女神と名乗るイリスがいるだけで間に合いそうじゃったからな。」


 そう言ってレイはニヤリと笑うと、俺の腕にしがみついてきた。


「そういうわけで〜じゃ。主、ワシととやらをしようではないか。」


「え゛っ?」


「ランが言っておったぞ、ツガイになった者と二人きりで時間を過ごすことを、今風にはというのじゃろ?」


 なんか余計なことを吹き込まれてる気が……。それに、万力のような力で腕を抱きしめられているから、逃げようにも逃げられそうにない。


「むっふっふ〜、ワシは勤勉じゃからな。こ〜んな時のためにしっかりとこんな物を用意していたのじゃ!!」


 そしてレイがもぞもぞと懐から取り出したのは、人間の言葉で『意中の相手とデート♡初級編』と書かれた、ハートマークとピンク色の主張が激しい本だった。

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