黒い血液注入実験


 さっき採血を行っていた獣人が持ってきたのは、透明な容器に入った小さな注射器と、厳重なケージで飼われているネズミのような生き物だった。その中には、黒い液体がいっぱいに詰め込まれている。


「ジルさん、お待たせしました。」


「ありがとうございます。後は私が引き継ぎます。」


 そしてジルにその二つを手渡すと、彼はペコリと一礼して部屋を後にしていった。


「さて、それでは検証と実験を始めましょうか。」


 ジルが真剣な表情になると、やはり注射器が怖いらしいレイがビクッと背中を震わせる。


「これから何を?」


「あのボルトドラゴンから採取した血液を、このラットに注射してみます。普通、違う生物の血液を体に注入されれば、拒否反応が出るものですが……この黒い血液は注射しても、何故かそんな反応は現れないのです。」


「でもその代わり凶暴になる……。」


「その通りです。この頑丈な檻も、万が一にも壊されないように……と特注の物を使っております。」


 説明しながら、ジルは黒い血液で満たされた注射器のキャップを外すと、中の血液が漏れ出さないように慎重に空気を抜いた。

 そしてラットを一匹優しく捕まえると、ゆっくりと注射器の針を刺して、血液を注入していった。


「お?なんじゃ、急に元気がなくなったの。ま、まさか針を刺されて死んだのか!?」


「いえそうではありません。これは体中の血液が、とてつもない速度でこの黒い血液へと置き換わっている最中なのです。」


 最後の一滴までラットに注射を終えると、ジルはすぐにラットをケージの中へと入れて、扉を閉める。


「そろそろ始まりますよ。」


 ジルがそうポツリと言った直後、ラットの体が急にビクビクと激しく痙攣しだす。それとともに、体の筋肉が隆起していき、手足の爪と前歯が凶悪なものへと置き換わっていく。


 最終的に目も充血したように真っ赤になると、黒い血液を注射されたラットは、同じケージにいた普通のラットに視線を向ける。


「まさか……。」


 俺の予想は的中し、黒い血液を注射されたラットは、普通のラットへと容赦なく襲いかかり、一方的に虐殺してしまった。


「自分と同種でも容赦ないのじゃな。」


「これがこの血液の恐ろしい所です。同種であろうと、自分以外の生命が目に入れば襲いかかる。そんな生き物へと変えてしまうのです。」


「ちなみに、これをもとに戻す方法とかって……。」


「それはまだ、究明途中です。」


「やっぱりそうだよな。」


 もし何か手がかりがあれば、マドゥをもとに戻す事もできるかと思ったんだが、そう甘くはないな。

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