カリンとマドゥの約束


 カリンが用意したのは、とある証明書だった。


「マドゥよ、これが何かわかるか?」


「……わかんない。」


「これは、誰と誰が家族関係にある……ということを証明するものだ。まずはここに此方が名を書く。」


 躊躇いなくカリンはその証明書に自分の名前を書いた。そしてペンをマドゥへと手渡した。


「マドゥよ、ここにそなたが名前を書けば……此方とマドゥはその時より新たな家族となる。」


「新しい家族……。」


 ペンを握るマドゥは、悩んでいるのかなかなか名前を書こうとはしない。


「で、でも僕がいて邪魔じゃないの?僕はいつ変な魔物になるかわかんないし……。あ、危ないよ?」


「それならば心配する必要はない。マドゥが万が一魔物化してしまった場合、此方の魔法で一時的に元に戻すことが可能だ。」


「そ、それなら僕を家族にしてどうするの?迷惑にしかならないよ。」


「その答えはさっき言ったぞ?マドゥがこの世にいる理由を作るためだ。」


 不安そうなマドゥの問いかけにカリンは即答していく。


「そ、その理由って?」


「決まっているだろう。マドゥと此方が家族である……それこそが理由になる。」


「…………。」


 迷うマドゥにカリンは、優しく頭を撫でながら語りかける。


「最初は戸惑うやも知れん。赤の他人と家族になるのだからな。……だが、家族になった暁には此方がこれだけは約束しよう。そなたを産んだ母親よりも、他の誰よりも此方がマドゥに愛情を注ぎ、生きる幸せというものを必ず教えること。そして、マドゥをその魔物化という厄介なものから解放することもな。この約束は此方の命に変えても、必ず守る。」


 そう真剣な眼差しでカリンはマドゥに約束すると、その熱意が伝わったのか、マドゥはゆっくりと紙に自分の名前を書き始めた。


「こ、これでいいかな。」


「うむ、問題なしだ。これで正式に此方とマドゥは家族になった。これからよろしくな、マドゥ。」


「あ、う、うん……えっと、そのカリンのこと何て呼べばいい?」


「それは無論だな。むしろそれ以外許すつもりはないぞ?あぁ例外的にカリンママならば許そう。」


「えぇ〜!?」


 果たしてこれはジョークなのだろうか……カリンの目は冗談を言っている人のそれではない、真剣な目をしている。


「よ〜し、新しい家族が増えたのだ。今日の食事は豪勢にしなければな。」


 そう言ってカリンは俺の方をチラリと見てきた。


「お祝いの料理を作れば良いですか?」


「うむ、頼もう!!料理ができるまで、マドゥは此方と甘える練習だ。さぁ寝室へ行くぞ!!あぁ、安心しろ。もちろん今日からは此方と一緒の部屋だからな。」


「その心配はしてないよぉ……。」


 すっかり母性に目覚めてしまったカリンにお姫様抱っこされて、マドゥは寝室へと連れて行かれてしまったのだった。


 前の環境よりも、少しでも彼が幸せになることを願うばかりだ。

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